18人が本棚に入れています
本棚に追加
「駄目ってわけじゃねぇぞ?
ウチはウチの名前が気に入ってっからよ。
呼んでも良いが間違えんなって話しだよ。
じゃおめぇ、言えんのかよ、ウチの名前?」
「……ナル……クァ」
ひろ子は恐る恐る答える。
またキレられたらたまらない。
「違う。
ナルクヮだ」
帰ってきたのは普通の訂正だった。
流石に、理不尽なキレ方はしないらしい。
しかし同時に、こうして改めて聞くと、確かに、喉を使うような、かなり難しい発音をしている。
だが、上手く行けば彼女に近づけるかもしれない。
そう感じたひろ子は、あえて挑戦してみる。
「……ナルカヮ!」
「ナルクヮ」
「クァ!!」
「クヮ」
「カァっ!!」
「……もう呼ぶな、おめぇ。
潰すぞ」
「……」
しかし、ナルクヮに諦められ、ひろ子は肩を落とした。
「無理しない方が良いよ~?
学校全体でちゃんと呼べんのエリくらいだし」
やりとりを聞いていたルイが、俯くひろ子の顔を覗き込む。
「けどナルさんも、暴力は良くないよ、絶対」
「知ってる、よ!」
少し悪戯に言った沙耶を、ナルクヮは軽く小突いた。
「痛っ。
も~」
「あはは~。
沙耶ちゃん怒られた~」
ルイが囃すと、3人は笑う。
ひろ子もそれを見て、今日1日で、自分が彼女等に馴染めている事が、純粋に嬉しく感じ、笑った。
「……ところでさ!」
不意にルイが話題を変える。
「ひろ子ちゃんと要って、幼なじみ……だったよね?」
「え?
うん」
「……恋とかしないの?」
「ほぇっ!!?」
余りの突飛な質問に、ひろ子の声は裏返り、思考回路は一瞬で停止した。
(要ちゃんと……恋!!?
え……え……!!?)
「凄い声出たね」
沙耶が苦笑いを浮かべ、ナルクヮは舌打ちをし、ルイに言う。
「バカ!!
おめ、ストレートすぎんだよバカ!!
このバカ!!」
「ちょっ、トリプルでバカ言わないでよぉ!!」
「お~い、ひろ子!
おめぇも早く起きろコラ!」
放心のひろ子の背中に、ナルクヮの鞭の様な蹴りが叩き込まれる。
もちろん、加減はしているが。
「痛いっ!!」
ナルクヮに抗議の眼差しを向けるひろ子を、3人は再び笑った。
その時、ルイが何かに気付き、前方を指差す。
「あ、ひろ子ちゃん、ほら!
寮見えてきたよっ!」
〈つづく〉
最初のコメントを投稿しよう!