三話目

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「駄目ってわけじゃねぇぞ?  ウチはウチの名前が気に入ってっからよ。  呼んでも良いが間違えんなって話しだよ。  じゃおめぇ、言えんのかよ、ウチの名前?」 「……ナル……クァ」  ひろ子は恐る恐る答える。  またキレられたらたまらない。 「違う。  ナルクヮだ」  帰ってきたのは普通の訂正だった。  流石に、理不尽なキレ方はしないらしい。  しかし同時に、こうして改めて聞くと、確かに、喉を使うような、かなり難しい発音をしている。  だが、上手く行けば彼女に近づけるかもしれない。  そう感じたひろ子は、あえて挑戦してみる。 「……ナルカヮ!」 「ナルクヮ」 「クァ!!」 「クヮ」 「カァっ!!」 「……もう呼ぶな、おめぇ。  潰すぞ」 「……」  しかし、ナルクヮに諦められ、ひろ子は肩を落とした。 「無理しない方が良いよ~?  学校全体でちゃんと呼べんのエリくらいだし」  やりとりを聞いていたルイが、俯くひろ子の顔を覗き込む。 「けどナルさんも、暴力は良くないよ、絶対」 「知ってる、よ!」  少し悪戯に言った沙耶を、ナルクヮは軽く小突いた。 「痛っ。  も~」 「あはは~。  沙耶ちゃん怒られた~」  ルイが囃すと、3人は笑う。  ひろ子もそれを見て、今日1日で、自分が彼女等に馴染めている事が、純粋に嬉しく感じ、笑った。 「……ところでさ!」  不意にルイが話題を変える。 「ひろ子ちゃんと要って、幼なじみ……だったよね?」 「え?  うん」 「……恋とかしないの?」 「ほぇっ!!?」  余りの突飛な質問に、ひろ子の声は裏返り、思考回路は一瞬で停止した。 (要ちゃんと……恋!!?  え……え……!!?) 「凄い声出たね」  沙耶が苦笑いを浮かべ、ナルクヮは舌打ちをし、ルイに言う。 「バカ!!  おめ、ストレートすぎんだよバカ!!  このバカ!!」 「ちょっ、トリプルでバカ言わないでよぉ!!」 「お~い、ひろ子!  おめぇも早く起きろコラ!」  放心のひろ子の背中に、ナルクヮの鞭の様な蹴りが叩き込まれる。  もちろん、加減はしているが。 「痛いっ!!」  ナルクヮに抗議の眼差しを向けるひろ子を、3人は再び笑った。  その時、ルイが何かに気付き、前方を指差す。 「あ、ひろ子ちゃん、ほら!  寮見えてきたよっ!」 〈つづく〉
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