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「な、何だよ、一君?」
「少し待て。何事も慎重に対処せねば、し損じる事も有る」
斎藤は冷静に告げる、がしかし、藤堂はいまいち納得がいかないようだ。肩を竦(すく)めて反論した。
「いや、だけどさ~? ただの喧嘩かもしれないし、もしかしたら見世物かもしれないし」
「だから今それを……その町人に確認する」
そういうと斎藤はスッと視線を藤堂の後ろへ向ける。
こちらに歩いてくる二人組の男達は、何やら眉を潜め、例の人だかりを指差しながら話し合っている。
あの人混みについて、何か事情を知っていそうだ。
「すみまないが、質問したいことが有る」
「ん? 何だい兄ちゃん! えらく色男だな~っ!」
「違いねぇ! よぉ色男! 俺達に何の用だい?」
斎藤が前から歩みより声をかけた。
二人組の男達は斎藤を下から上まで見ると『色男』と呼び、愛想良く元気に答えた。質問に答えてくれるらしい。
恩に着る、と言ってペコリと小さく頭を下げ、斎藤は人だかりを指し示した。
「あそこで、何があっている?」
「あ~あれか……」
男は斎藤の指を視線で追って、何やら言いづらそうに口ごもる。
いったいあそこで何が起きているのだろうか。
「いや、……喧嘩だよ」
「何だ、やっぱ喧嘩かよ」
男が勿体振ったように話すものだから、何かあるのかと眉を潜めたが、その答えが予想したものであったため、斎藤の隣にいた藤堂は途端興味を失った。
その証拠に藤堂は斎藤の袖を引っ張り、なぁ帰ろうぜーなどとやる気なさ気に促している。
しかし、男の話には続きがあった。
「それがただの喧嘩じゃなくて、一人は武士だ。刀を持って振り回してたな」
「別に、珍しい話でもないと思うが」
斎藤が首を捻るのも最もであった。
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