序章;こんにちは、新選組

13/42
前へ
/43ページ
次へ
(酷ぇ……!!) 事情は知らないが、思わずその男に同情したのは、藤堂だけではないはず。 斎藤も微かに、顔を引き攣らせたような……。 周りを取り囲む者が、冷や汗を流し息を飲んだのも理解出来るのである。 「だ、誰か助け……て、く…………」 半ば白目を向いて、男の手が助けを請うように宙を掴む。 当然ながら周りの野次馬どもに、そんな勇気は無い。 ただ囃(はや)し立てるのが目的で、ボコボコにされた男を憐れに思う気持ちはあれど、その男をボコボコに打ちのめした娘に立ち向かうなど……考えただけで、恐ろしくて青ざめる。 民衆がたった一人の娘ために、恐怖に晒され動けずいる中。いち早く我に帰り行動を移したのは…… 「行くぞ、平助」 斎藤であった。一旦自分を取り戻した斎藤は、事も無げに男の方に足を進めようとする。 「えぇ!? 行くのかよ!? 結局か弱い娘なんて何処にも居ないしさ? ほっとくことにしよーって!」 「このまま放置すれば、娘は良いとして、男の生命活動が絶たれる。未然に防げるのならば、最善を尽くす可きだ」 「生命活動が絶たれる……って遠回しに死ぬってことじゃん!?」 喚く藤堂に、斎藤は急ぐぞ、と告げ早足にその男と娘達に近付いていった。 「おい、娘。……それくらいにしておけ」 斎藤は後ろから近寄ると、娘の肩を掴んだ。 すると、娘はゆっくり顔だけ振り返り、斎藤を見てキョトンとすると、目を瞬(しばた)かせる。 「ん? 誰ですかね、あんた。部外者はちょっと黙ってて下さいよ」 「それ以上やれば、そいつが死ぬ」 娘はまた男に拳を振り下ろそうとしたが、斎藤が娘のその拳を、瞬時に自分の手で包むように握って、娘の行動を止めた。 「あたし、こいつを潰さないといけないから、それならむしろ、本望ですよ?」 娘は綺麗な顔でにっこり笑って首を横に傾け、物騒な事を平気で言ってのける。 再び、斎藤に拳を包まれたまま、グッとそれ力を込めた娘だが、斎藤は片眉を上げただけで、ビクともしない。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

768人が本棚に入れています
本棚に追加