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(酷ぇ……!!)
事情は知らないが、思わずその男に同情したのは、藤堂だけではないはず。
斎藤も微かに、顔を引き攣らせたような……。
周りを取り囲む者が、冷や汗を流し息を飲んだのも理解出来るのである。
「だ、誰か助け……て、く…………」
半ば白目を向いて、男の手が助けを請うように宙を掴む。
当然ながら周りの野次馬どもに、そんな勇気は無い。
ただ囃(はや)し立てるのが目的で、ボコボコにされた男を憐れに思う気持ちはあれど、その男をボコボコに打ちのめした娘に立ち向かうなど……考えただけで、恐ろしくて青ざめる。
民衆がたった一人の娘ために、恐怖に晒され動けずいる中。いち早く我に帰り行動を移したのは……
「行くぞ、平助」
斎藤であった。一旦自分を取り戻した斎藤は、事も無げに男の方に足を進めようとする。
「えぇ!? 行くのかよ!? 結局か弱い娘なんて何処にも居ないしさ? ほっとくことにしよーって!」
「このまま放置すれば、娘は良いとして、男の生命活動が絶たれる。未然に防げるのならば、最善を尽くす可きだ」
「生命活動が絶たれる……って遠回しに死ぬってことじゃん!?」
喚く藤堂に、斎藤は急ぐぞ、と告げ早足にその男と娘達に近付いていった。
「おい、娘。……それくらいにしておけ」
斎藤は後ろから近寄ると、娘の肩を掴んだ。
すると、娘はゆっくり顔だけ振り返り、斎藤を見てキョトンとすると、目を瞬(しばた)かせる。
「ん? 誰ですかね、あんた。部外者はちょっと黙ってて下さいよ」
「それ以上やれば、そいつが死ぬ」
娘はまた男に拳を振り下ろそうとしたが、斎藤が娘のその拳を、瞬時に自分の手で包むように握って、娘の行動を止めた。
「あたし、こいつを潰さないといけないから、それならむしろ、本望ですよ?」
娘は綺麗な顔でにっこり笑って首を横に傾け、物騒な事を平気で言ってのける。
再び、斎藤に拳を包まれたまま、グッとそれ力を込めた娘だが、斎藤は片眉を上げただけで、ビクともしない。
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