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「え、何が……」
二人の言葉に疑問を浮かべた藤堂が尋ねようと、口を開いたところでやっと気付く。
何やらドタバタと騒がしい外からの物音、いや足音に。
夏海も含め、部屋に居た全員が、その足音の聞こえてくる方に注目する。
そして、足音がより一層大きくなったと思うと同時に、スパ―ンッと、勢いよく襖が開かれた。
そこに立っていたのは、夏海と同じ年頃と思われる一人の青年。
「土方さーんっ!」
その青年の、色白で愛らしい笑顔を浮かべる姿が、夏海の目に飛び込んできた。
語尾に、遊びましょーっとでも付きそうなほど、弾んだ声色の色白青年だったが、部屋に入った瞬間に集まる多くの視線と、妙な沈黙にキョトンと目を丸くして首を傾けた。
「ん? どうしたんですか、皆さん集まって」
「ああっもう、総司ぃ…………」
場の空気を読まず、全く緊張感の無い青年に、藤堂は呆れてものも言えず、ただ総司と名前を呼び肩を落とした。
そんな脱力した藤堂を見た青年は、パッと顔を輝かせ何を言うかと思いきや
「あ、平助! 葛切りは美味(おい)しかった!?」
……この一言。
唐突にそう言われ、一瞬考える藤堂だが、すぐに先程斎藤と二人で甘味屋へ行ったことを思い出す。
「は!? あ、いや、うん、美味(うま)かったけ……」
「あぁっ!! 土方さん! 何してるんですか!? “また”昼間から女の人連れ込んで」
藤堂が返事している最中にもかかわらず、質問した当本人である青年の意識は、すぐに別の者へと移った。
どうやらこの青年、色白で大人しそうな外見に反して、かなりの好奇心の持ち主らしい。
丸い瞳はキラキラと輝き、右から左へあっちに行ったりこっちに来たり、とどまることを知らない。
そんな青年を見て夏海は違和感を感じた。何処か見覚えのある青年の顔に、誰だったっけ、と思考を巡らせる。
「へぇー……。貴方、土方って言うんですね? “また”……って、……へぇ~?」
結局すぐには思い出せずに、今は取り敢えず考えるのを中断すると、夏海は依然として男に馬乗りになったまま、ニヤリとあくどい笑みを浮かべた。
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