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だがまあ、ただ座らせても、先程の様子からも伺えるよう、沖田は大人しくじっとしているような質(たち)ではない。
斎藤と藤堂の間で一応座ってはいるが、このままでは数分と持たずに、また空気も読まず、行動するに決まっている。
がしかし、そこは斎藤である。
沖田のそのことも抜かりは無かった。
「土産だ」
斎藤はしれっと包みを取り出し、沖田に手渡した。
受け取った沖田は途端、子供のように顔を輝かせる。
「うわーっ!! 嬉しいです! ありがとうございます、一君!」
両手の平に乗った軽い重みの包みを見て、にこにこと頬を緩ませる。
包みからは微かな甘い香りが漂って、沖田の食欲を刺激する。
「これは、総司に全てやる。少しの間、大人しく出来るか」
大喜びしている沖田の頭に、ポンポンと斎藤が大きな手を乗せる。
目をキラキラと輝かせた沖田が、その問いに「勿論です!」と大きく頷くと、斎藤は極微かに口を綻ばせた。
その様子は歳の離れた兄弟のようで、何とも微笑ましい光景である。
実際、斎藤と沖田の歳は変わらないくらいであろうが、どうにも斎藤は面倒見が良いらしく、その上大人びているため、雰囲気だけなら、はたまた父と子のようにも思える。
「そんなのいつの間に買ったんだよ、一君?」
藤堂がいそいそと包みを開ける沖田を横目に、首を傾げて斎藤を見上げる。
「平助が甘味を食していた時だ」
「一君ってさ、気ー効くよなー!」
淡々と答えた斎藤に対し、藤堂が心底感心したようにうーんと唸った。
と、何処からか、ぶつぶつぶつぶつと恨みがましい言葉が聞こえる。
「あたしの事は無視ですか、この野郎。早く帰らせろっつーの」
言うまでもない、夏海だ。
土方は静かになった沖田に、眉間の皺をやや緩めたが、先程から山崎の腕の中で、ぶつぶつ不満を呟いている、問題児を見据えた。
(……ったく、厄介なの連れて来たもんだ)
チッと声には出さないものの、内心舌打ちの土方は斎藤と藤堂をチラリとほんの一瞬、一目した。
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