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ジタバタと足を動かし、暴れる夏海を土方がギロリと睨みつけ、罵声を浴びせた。
「ぴーちく、ぱーちく、煩っせーんだよ。ちったぁ黙ってろってんだ、糞女」
「な!? く、なっ……! ~っの野郎、潰す! 絶対、潰す!!」
案の定、怒り狂った夏海がより一層激しく、身体全身で暴れまくる。
それを制する山崎は大変と云うものだ。……まあ涼しい顔をしているが。
土方は胡座をかいたひざ頭に顎腕をつきながら、夏海を見ると、訝しんで片眉を吊り上げた。
そのまま、呆れたように、またけだるそうに、言葉を放つ。
「騒がしい女だな、本当に女か、お前?」
至極当たり前の、不躾な質問を平気でかましてくれる土方に、夏海はぷるぷると震える。決して悲しい訳ではない。押さえきれない怒りが滾(たぎ)り、顔面がぴくぴく引き攣る。
「はぁぁぁあぁ!? 誰のせいですかね、おい、性悪糞野郎! その上失礼極まりないな! 歴(れっき)とした女だっつーの! あんたのその目は節穴ですか!?」
指で思いっきり土方を指差し、一気に言い切った夏海は呼吸を荒くするが、土方は嫌そうに顔をしかめただけで、耳に指を突っ込んで耳栓をしていた。
「耳が痛てーんだよ。大声で喚くな、聞こえてる」
「く~っ! 潰す潰す潰す潰す潰す!!」
むきいぃぃぃと甲高い声で叫び、完全に冷静は失っている。そして、半ば呪文のように『潰す』と連呼し続ける夏海。
そんな夏海を眉を寄せ、物凄く不快そうな顔で一目した土方は、言葉を吐き出した。
「あー面倒臭せぇな。お前、帰っていーぞ」
「言われなくとも、そうしてや…………え?」
売り言葉に買い言葉。……とはまた少し意味合いは違うが、勢いのまま啖呵切ろうとした夏海は、途中で土方の言葉の意味を理解し、呆気に取られ、口を噤(つぐ)んだ。
土方のその台詞は、夏海にとって、まさに好都合な物であったが、余りのタイミングに、都合の良い幻聴かと思うのだった。
夏海が言葉を失っていると、すかさず聞こえてくるのは
「聞こえなかったのか。使えねーなら、その耳削ぎ落としたらどうだ?」
土方の厭味である。
口端をクッと吊り上げ笑う様は、夏海には忌ま忌ましいことこの上ないが、美丈夫なだけにそれさえも似合っている。
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