序章;こんにちは、新選組

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「聞こえてるわっ! 本っ当、いちいちむかつく野郎だな!!」 ガルルと野犬のように吠えて歯を見せ、山崎の腕の中で暴れる夏海。 その行為が無駄だとは、夏海ももう十分承知済みだが、厭味ったらしく毒づく土方を前に、奥歯をギリと噛み締めた。 土方はそんな夏海の考えを、見透かしているとでもいうように、鼻で笑う。 「はっ、好かれても困るがな。それより、てめぇもとっとと帰りやがれ。そっちにとっても、願ったり叶ったりだろ?」 こう言った土方は、夏海が『はい』もしくは『分かった』いづれにしてもすぐさま“肯定”の返事を返すと考えていた。 しかし、それは“普通のおしとやかな町娘”だったら、の話だ。 土方の考えの落とし穴は、それが夏海だったこと。 「帰らないから!」 「は?」 土方が極めて珍しく、締まりの無い表情を見せた。 「今、何て言ったんだ?」その言葉が喉の奥まで出かかる。 「そっちに用が無かろーが、こっちには有るっつの! 団子代払うまで“絶対”帰らないですからね!」 勢い良く啖呵切った夏海。 と、夏海に指差され唖然とする土方と、その他一同。 どうやら夏海は、土方が犯人を逃がして(というか、煩わしかったから釈放しただけなのだが)、団子のお代が貰えなくなったことが、何より不満らしい。 「あいつ、本物の馬鹿なんじゃね?」 心底呆れたように藤堂がボソリ呟けば、直ぐさま夏海の鋭い眼光が飛んでくる。 どうやら地獄耳らしい。 「うっさいな。黙っててよ、おちびちゃん」 「~っ、だから!」 はっ、と仕返しに厭味と鼻で笑う夏海に藤堂が顔を赤くして、怒りにプルプル震える。 ギャーギャー低レベルな次元で争う二人に、土方が顔面を引き攣らせ……。 「お前等、二人とも煩っせーんだよ!」 怒声が飛んだ。
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