768人が本棚に入れています
本棚に追加
「聞こえてるわっ! 本っ当、いちいちむかつく野郎だな!!」
ガルルと野犬のように吠えて歯を見せ、山崎の腕の中で暴れる夏海。
その行為が無駄だとは、夏海ももう十分承知済みだが、厭味ったらしく毒づく土方を前に、奥歯をギリと噛み締めた。
土方はそんな夏海の考えを、見透かしているとでもいうように、鼻で笑う。
「はっ、好かれても困るがな。それより、てめぇもとっとと帰りやがれ。そっちにとっても、願ったり叶ったりだろ?」
こう言った土方は、夏海が『はい』もしくは『分かった』いづれにしてもすぐさま“肯定”の返事を返すと考えていた。
しかし、それは“普通のおしとやかな町娘”だったら、の話だ。
土方の考えの落とし穴は、それが夏海だったこと。
「帰らないから!」
「は?」
土方が極めて珍しく、締まりの無い表情を見せた。
「今、何て言ったんだ?」その言葉が喉の奥まで出かかる。
「そっちに用が無かろーが、こっちには有るっつの! 団子代払うまで“絶対”帰らないですからね!」
勢い良く啖呵切った夏海。
と、夏海に指差され唖然とする土方と、その他一同。
どうやら夏海は、土方が犯人を逃がして(というか、煩わしかったから釈放しただけなのだが)、団子のお代が貰えなくなったことが、何より不満らしい。
「あいつ、本物の馬鹿なんじゃね?」
心底呆れたように藤堂がボソリ呟けば、直ぐさま夏海の鋭い眼光が飛んでくる。
どうやら地獄耳らしい。
「うっさいな。黙っててよ、おちびちゃん」
「~っ、だから!」
はっ、と仕返しに厭味と鼻で笑う夏海に藤堂が顔を赤くして、怒りにプルプル震える。
ギャーギャー低レベルな次元で争う二人に、土方が顔面を引き攣らせ……。
「お前等、二人とも煩っせーんだよ!」
怒声が飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!