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土方は普段の数倍……いや、数十倍、眉間に皺を刻んでいた。
それというのも、言わずもがな、土方の眼前の女、夏海のせいで。
土方は夏海の女として、予想外の言動やら行動やらに、頭を悩ませていた。
依然としてギャーギャーと吠える夏海にどうしたものか……と、面倒に思う一方で、この元凶を連れて来た斎藤、藤堂等を恨めしく考える。
「金、金、金~金払えや~っ!」
「煩っせーよ!」
「あはは、お金の亡者みたいですね!」
ガチャガチャと金だ金だと連呼する夏海に、それを黙らせようとする藤堂。そして相変わらず暢気な沖田。
土方の気苦労が絶えないのは、仕方ないのかもしれない。
「……ったく」
チッと舌打ちしてしまうのも、頷けることだ。
「で、どないします? 土方さん」
頭を抱えていると、すぐ隣に山崎が来ていた。
夏海はどうしたのか、と土方は視線を漂わせれば、今度は斎藤に捕まっているようであった。
「だ~か~ら、逃げませんから、離して下さいって!」
何度頼んでも首を縦に振らない斎藤の頑なな態度に、夏海もほとほと疲れてきたようで、口がヘの字に曲がっている。
「断る。俺がこの腕を離せば、あんたは暴れ馬のようにまた騒ぐだろう」
「暴れ……って失礼ですね!」
至極淡々とほぼ間違いない仮定上の事実を述べた斎藤。
その例えがあまりにお気に召さなかった夏海が、ムッとして言い返す。疲れていたせいで暴れることは無かったが、目でギロリと睨みつけた。
と、斎藤はそれを受け、何を思ったのか、静かに頭を振り、ほんの僅か、申し訳なさそうに眉を潜めた。
「……いや、すまない。猪だったな」
「いやいやいや! 一君謝り所、可笑しいから!」
その一言に、すかさず藤堂のツッコミが入ったのは、言うまでもない。
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