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「おい」
それまで沈黙していた土方が、声を上げた。
何事か、とその一言により、騒がしかった場内が落ち着きを取り戻し、部屋が静まる。ただし、沖田以外は、だが。
おい、もう一度呼びかける。
土方と目が合ったのは夏海だ。
「何ですか?」
夏海は嫌そうに、棘を含む声で返事を返した。しかし、土方はその様子を気にせずに、続ける。
「お前、“絶対”帰らねーんだな?」
「“絶対”帰りませんよ。お代を頂くまでね」
だから、さっさと返せ。こう言う意味合いを含めて厭味な顔で夏海がほくそ笑むと、土方は眉間に皺を寄せるどころか、口端を上げ意味深に怪しく笑った。
それはほんの一瞬の表情だったが、夏海はしっかりと目撃していた。
(何か、そこはかとなく、嫌な予感がする)
眉をピクリと上げ、表情を歪めた夏海は口を開きかけた。
その時、また外がやけに騒がしくなる。
「今度こそ、永倉さんに原田さんやな」
山崎が襖を見遣れば、斎藤が同意するように頷く。
そして、その例の二人が、いきなり部屋へ飛び込んできた。
「おい、新八! 勝手に入るなって!」
「うるせー左之! 俺は今高鳴る怒りで止まらねー……って、お?」
「あ」
その登場に目を丸くした夏海は、入ってきた人物の顔を見るなり、間抜けに声を漏らした。
それはその二人が、先ほど自分に向かって竹刀を飛ばした男達だったからだ。
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