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「何だ、嬢ちゃん。まだいたのかい? さっきは本当悪かったな!」
「怪我とかしなかったか?」
短髪の筋肉質の男が両手の平を豪快に叩き合わせ、夏海に謝罪する。
そして、もう一方の背の高い男は、夏海に気遣わし気な視線をやった。
「あー……、気にしないで下さい」
ふいっと二人から顔を背ける夏海。そっけないその態度に短髪で筋肉質な男――永倉新八――が首を傾げると、のっぽな方の男――原田左之助――が横肘で突き、かなりご立腹みたいだなとぼそり耳打ちした。
「あ? 謝ってんのに、まだ怒ってんのかよ?」
「女ってのは口には出さねーが、根に持つからな」
永倉が眉をピクリと寄せれば、原田が最もらしいことを言った。
それは極々小さな声だったのだが。
「……何かおっしゃいましたか?」
ドスの聞いた声にジトリとした視線。
夏海にはバッチリ聞こえていた。
「い、いや……」
「な、何でもねぇよ!」
ごまかすように首を振る二人だが、額に大量の汗をかいていれば、心の内など調べずとも容易く分かるというものだ。
「左之さんも新八っつぁんも、馬っ鹿だなぁ」
それを傍観していた藤堂が、二人を眺めながらしみじみと呟く。
と、すかさず永倉がつっかかった。
「何だと、ちび助!?」
「な!? ちび助って何だよ!? 俺は平助だっての!」
「おいおい、やめとけよ」
室内の殺伐とした空気を読まずにガヤガヤと言い合う二人。
見兼ねた原田が止めようとするも、あえなく失敗していた。
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