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そんな感じに場がまた、てんやわんやしていると、ついに土方がゆらりと僅かに動く。
やや前屈みの状態になり、その視線の先には、夏海がいる。
土方は夏海を眺めると、さも愉しそうに一人、クッと口角を持ち上げた。
「うっわー……気味の悪い笑い方ですね」
その土方を横目にチラリ、確認した夏海がほくそ笑む。内心嫌な気がして仕方ないのだ。
斎藤の腕にしっかり捕まえられたまま、げんなりとうなだれる。
するとその横で、最後の1つ団子を頬張り終えた沖田が、にこりと花のように微笑んだ。
「いつものことですよ? あれが土方さんにとっての普通です。気持ち悪いのが土方さんです」
「じゃあつまりいつも気持ち悪いんですか」
「はい。いつも気持ち悪いんです!」
夏海と沖田。言いたい放題、ぼろくそに土方をけなす。
好き勝手悪口吐かれた土方はと言うと、先ほどの体制のまま、静かに拳を固く握っている。今にもその怒りは爆発しそうだ。
気が気でないのは、それを見守る、もしくは傍観する周囲の者達。
「おいおい、やべーんじゃねーの?」
「総司はいつもあんなだからな……今までよく首が飛ばなかったもんだぜ」
「いや総司もだけどさ、問題はあの男女(おとこおんな)の方だって! あいつ絶対帰れねーよ! 帰る前に先にあの世行きだって!」
永倉に続いて原田、藤堂等は部屋の隅にて、小さく身を寄せ合った。
土方の様子に気付いた三人は皆、顔色があまりよろしく無い。
と、不意に何故か藤堂から慌てて顔を背けた永倉。藤堂が首を傾げると、その原因にいち早く気付いた原田が、苦笑いしながら藤堂を肘で突いた。
「おい、おちびちゃん。全部聞こえてんだけど? 男女(おとこおんな)って何ですかね?」
「……げ」
藤堂が頭だけ振り返ると、そこには冷笑を浮かべる夏海。
地獄耳の夏海は先程藤堂が漏らした悪口を拾い、ぎろりと鋭い視線と、わざとらしい言葉を向ける。
「あー……いや」
決まり悪そうに言葉を濁して頭をかく藤堂。
沈黙に場が静まると、そこで口を開いたのは、斎藤であった。
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