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「分からぬのか。平助は橘、あんたのことを言っている」
「…………」
ピシリと固まる夏海。とその他。
「わーこりゃまた。相変わらず、一ちゃんは天然やな」
「は、一君っ!?」
「斎藤らしいっちゃ、らしいけどな」
しばらくの間の後、ようやく山崎の軽口が入り、続いて決定的に痛いところをつかれた藤堂のあわてふためく声。
そして最後に、その保護者的立場にある原田の何とも言い切れない苦笑。
「……喧嘩を売っているなら、丁重に買い取らせていただきますけど?」
にこり。笑う夏海の背後には、般若が見えるようだ。
「喧嘩? 特に売ったつもりもないが」
「惚けた顔に殺意が湧くんですけど」
「あれは一ちゃんの地やからな……。諦めたほうがいいで」
夏海の言葉に首を捻る斎藤。何を口から出まかせついちゃって、と拳を握った夏海だったが、山崎の緩い声で一気に気を削がれた。
「おい。がたがた煩せぇぞ! ちっとも話が進みゃしねぇじゃねぇか」
「一番声貼ってるのは貴方ですけどね」
土方が声を張れど、夏海には全く効かず。怯えるどころか逆に、逆らう。ますます、普通とは逸脱している。
「あの嬢ちゃん、上手いこと言うな」
「おい馬鹿、黙っとけって」
永倉はぼそぼそと横肘で横っ腹を突きにやりと笑う。原田が土方を横目で映せば、予想通り、既に鋭い眼光が飛ばされ、とばっちりだと肩を落とし、永倉をどついた。
「本当お前ら三馬鹿は……」
やれやれと首を振る土方。反応したのは、勿論、永倉、原田、そして。
「いやいやいやいや! 酷ぇよ土方さん! 今の俺、全然関係無かったじゃん!」
「煩せぇよ。止めねぇお前も同罪だ」
ええっと騒いだのは藤堂。“三馬鹿”はこの藤堂、原田、永倉のことらしい。
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