序章;こんにちは、新選組

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 「さぁさぁ、大人しく尾縄についてもらおうか?」  散々走ったために、尚も苦し気に息を切らす男。夏海は指をバキバキ鳴らしながら、満面の笑みでジリジリと迫る。  その迫力といったら凄まじい物で。  「く、来るな!!」  男が夏海に恐れて、少しずつ少しずつ後退するほどだ。  その食い逃げ犯の様子に夏海はというと、思いっ切り呆れた顔で、腰に手を当て仁王立ちをする。  「男なら潔く諦めろよ? 家(うち)の団子がただで食べれると思ったら大間違いなんだよ! さっさとお代を払え……っ!?」  「……女のくせに煩せぇんだよ!! この刀の餌食になりたくないなら、大人しくしな!」  追い詰められた男はなんと、刀を取り出した。両手で構えて夏海を脅そうという魂胆らしい。  その刀を見て目を細めた夏海が静かな、だがハッキリと聞こえる声で、一つの質問を投げた。  「お前、武士か?」  「そうだ!平伏すがいい、小娘よ!」  刀を手にした途端、急に強気になり卑下た笑いを浮かべ、威嚇するように刀を振り回し高笑いを始める。  「どうした? 俺が恐いか、小娘」  黙った夏海に勘違いした男がニヤつくが、生憎とそうではないのだ。  夏海は呆れすぎて、開いた口も塞がらないような状態だけで。  (こんな食い逃げ野郎が武士なんて、世も末だな)  はぁ、と溜め息を零した夏海を見て、癪に障ったのか、男は片眉を吊り上げ、怪訝な顔をする。  「何だぁその態度は!? 今なら手ぇついて土下座すれば、命までは奪わないでやるよ」  男はニタニタとニヤつきながら、刀を振り回して権力を翳(かざ)すように見せ付ける。  当然ながらそんなことをされれば、夏海も怯えて小さな声で  『きゃあ……!!』  『お花! 危ないから離れなさい!』  悲鳴を上げたのは道行く町娘なわけで、だがしかし、これが普通の反応である。
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