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夏海はというと
「誰がお前なんかに土下座するかよ! お前に土下座するくれぇならアタシは自害してやるよ」
「な、何だとぉ……!?」
更に相手を挑発するような台詞を言って完全に
「そんなに死にてぇなら俺が望み通り殺してやるよ……!!」
……怒らせた。
刀を振り上げ、走り出そうと身構える男を目の当たりに、周りの町人が騒ぎ出す。
完全に顔を怒りに朱くした男に、夏海はもう後戻りは出来ないだろう。
だけど、夏海は最初から引くつもりなんかこれっぽっちも無いらしく、不適に微笑み
「……かかってこいよ?」
クイッと手招き。
「斬り殺してくれるぅぅぅ!!」
完全に挑発に乗らされた男は逆上し、その銀に光る刃を、夏海に振り下ろしたのだった……。
後に、夏海に喧嘩を売ったことを後悔するとも知らずに。
――所代わって、時間は少々遡る。
「なぁ、一君」
「……なんだ」
とある甘味屋に男二人が向かいあい、椅子に腰かけている姿があった。
一、と呼ばれた青年、斎藤 一(さいとう はじめ)は無表情で静かに顔を上げ、もう一人の青年を見やり、僅かに目を細めると、彼の口の横をスッと指差した。
「平助。付いている」
「うわっ!? もっと早く言ってくれよな~、一君?」
指摘され、慌てて口端をゴシゴシ袖で拭う平助と呼ばれた青年。藤堂 平助(とうどう へいすけ)。
「すまない。今、気付いた」
斎藤は一度瞬きすると、素直に謝った。その様子からするとどうやら彼は律儀な性格らしい。
「そろそろ出ようぜ」
「ああ」
葛切りを食べ終わった藤堂が声をかけたのを合図に、二人は席を立ち、かっちり勘定を払ってから店を出た。
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