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「……平助。見られているぞ」
「俺じゃないよ。一君だろ?」
まあ……恋心に疎い、というか関心が無い斎藤と、そもそも恋心事態がまだ分かっていない藤堂にとって、その視線は居心地の悪いものでしかないようだが。
「ところで平助。これから何処へ行くんだ」
「あ~特に決めてないや。天気もいいし、適当に散歩しながら頓所に帰ろうよ」
「承知した」
藤堂の意見に斎藤は頷き承諾すると、二人は少し遠回りをして頓所までの道程(みちのり)を帰ることにする。
すると角を曲がった所で斎藤が徐(おもむろ)に足を止めた。それに釣られて藤堂も立ち止まり、不思議そうに首を傾げて斎藤を見上げる。
「どうしたんだよ、一君?」
「可笑しい。周囲の空気が変わった……」
「そ~言えば何っか騒がしいよな? ん? あれ何だ?」
斎藤の瞳が鋭く細められると、藤堂も周りの気配を探る。キョロキョロと辺りを見回し何かに気付いた藤堂が、前方を指さした。
その先には何やら人だかりが出来ている。
「うっわ~いっぱい人いるし! これじゃあここ通れねーじゃん!」
あちゃ~、と額に手を付いたが、そこは好奇心旺盛な藤堂。やはりそちらが気になったようで、輪になり集まる群集の様子をソワソワと落ち着かない様子で伺っている。
それに気付いた斎藤が横目で
「……気になるか?」
と、一言尋ねれば、藤堂は図星らしく、バッと勢いよく斎藤を見返す。
「え!? あ~まあ……。一君は気になんないの? あんだけ人が集まってて」
「……個人的にはあまり気にならないが、新選組としては京の治安を護るのが必至だ」
「相変わらず仕事熱心だよな~、一君は。よし! じゃあ早速見に行こうぜ! ただの喧嘩なら俺達が首突っ込むまでもねーだろうしな!」
「ああ、いやちょっと待て」
直ぐにでもその人混みの中へ駆け出して、突っ込もうとする藤堂を、斎藤が肩に手を伸ばして引き止めた。
それで振り返った藤堂は、あちらを気にして焦れったそうにする。
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