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「あれ?」
眉間にしわを寄せると、右に倒した頭を逆方向に傾ける。腰まで伸びた長い髪が背中でさらりと流れた。
「あたし……だれ?」
呟かれた言葉に、男は口元を吊り上げた。
声を聞く度に心躍らせていたのに、今ではあの歌をうたっていた人物の顔も名前も思いだせない。夢のようでもあるが、現実のようでもある。
体を震わせながら見上げてくる少女を一瞥すると、ラオベは嬉しそうに顔を歪ませた。
男と視線が交錯した瞬間、得体の知れぬ恐怖が少女の体にぬめりと纏わりついた。両腕で頭を抱えると、膝に顔をうずめる。
「分からない。何も思いだせない……っ!」
肩を震わせながら顔を上げれば、棚の隅のヒビ割れた鏡が少女を映す。腰まで伸びた朽ち葉色の髪の少女。手枷・足枷をつけ、埃かぶった棚の上に座り込んでおり、体長は三十センチといったところ。
大きく見開かれた琥珀色の瞳が微かに揺れた。
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