イラッシャイマセ

9/10
前へ
/35ページ
次へ
仕方なく門から手を離す。 錆び付いたそれは雪野の手のひらを少し赤くした。 「それにしても、どうすばいいのかわからんな」 インターホンは見当たらない。 あったほうがこの洋館には合ってはいない。 でも、これでは呼び出せないから彼は途方にくれた。 まるで玩具を与えられず放置された子供のような気分だ。 だが探求心は芽生えたらしい。 辺りを見回してみると、優しい風がまた木々の葉を揺らす。 それを美しいと感じる余裕さえも出てきた途端、あの花のような薫りに気が付いた。 これは何処から薫るのか、キツくはないそれでいた甘ったるくはない、気分をよくする匂いだった。 見つけたい……。 これはいったいなんの香りなんだ。 心がそれを求め、体は途端にそわそわとしだす。 逆にイラつくそんな気持ちを抑えるが……。 「くそっ」 だが見つけられない。 ザァァ 今まで一番強い風が吹く。 多くの葉が舞い運ばれ、彼の周りでハラハラと踊った。 「……」 あぁ、見つけた 薄茶色の葉が舞う中彼の隣には一人の少女がいた 白い肌に薄いピンクの唇を開き それに似た桃色のセミロングに切られた髪 そして彼らの特徴の血のように真っ赤な瞳 彼女こそが人造人間 「お前は……っ!」 雪野が先手を切ろうとした矢先、彼女は彼の口に自分の指を突っ込んだ。 「――っ!!」 いきなりの事で雪野は目を丸めたが、彼女はその目をじっと見た。 というよりは、観察をした。 それから、彼の口から自分を解放すると。 目をふせ、小さく、しかし凛としたよく通る声で囁いた。 「……イラッシャイマセ」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加