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彼女はとてもいい匂いがする、あの花の薫りだ。
「お前は」「……」
少し構えながら声をかけたが、じっと顔を見られた。
雪野は固まってしまい動けなくなった。
「おしご、と……くれる??」
それから暫くして、意外なくらいたどたどしい言葉で彼女は尋ねた。
「ぇ……、あぁ」
返答すると彼女は頷き、門を開いて彼を招いた。
屋敷へと向けられた腕はか細いものだった。
「おい!」
「??」
彼女はそのままの姿勢で止まり彼を見つめた。
「お前は本当に人造人間なのか!!」
"人造人間は残酷で
目が人間の血で紅く染まっているんだ"
そう言った上司の淀んだ瞳が浮かぶ。
確かにそれは一度見たら血のような紅だ。
でも不思議とそれは宝石のように、キラキラとしていて純粋に綺麗だと思えた。
雪野にはなんとなくわかるんだ、
彼女は上司の言ったような残酷な存在ではないと。
こんなとっさの時の彼の勘はよくあたる。
だから確かめたかった。
あわよくば違うと首をふって欲しかった。
自分にとって嘘つきの見せ物のような存在だった彼らは、自分たちよりも純粋なものだったと認めたくなかった。
もしかして自分はプライドが高いのかもしれないと、彼は考えている。いや、きっとそうだ
でもそれがわかっていても彼は認めようとしないだろう。
一方少女は不思議そうにずっと首を傾げていた。
「俺の言ってる事がわからないのか?」
「……」
少女は再び雪野の顔まで腕を伸ばした。
自然に彼女は背伸びをした状態にはなったが、再び彼の口が侵入されるような事はなかった。
更に彼女の手のひらは雪野の眉間を通りすぎ、その天辺に着地した。
そのまま彼女は無言で雪野の頭を撫でた
「……」
この歳になって頭なんて撫でられるなんて……、と雪野は愕然として立っていた。
少女はそれに気付いたのか、手を引っ込め申し訳無さげに彼を見た。
「だい、じょぶ。
れんちゃ……やさしい、よ」
寂しそうに、儚く……。
そう彼女は笑ったが、雪野は彼女が何を言ってるのかわからなかった。
仕方なく、撫でられて何だか痒くなった頭を掻いた。
だが、気分が落ち着いてわかった気がする。
「あんまり変わらないんだな」
「?」
再び彼女は首を傾げる。
「俺たち…」
途端に彼女の笑顔が眩しいものに変わる。
そしてまた腕を伸ばした来たが…
「それはいらない」
口でも頭にしても、雪野はそれを二度と味わいたくなかった。
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