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「おしご、と……」
少女は物欲しげな顔で雪野を見上げた。
それはどちらかというとオモチャが投げられるのを待つ犬よりも、
餌をねだり上手に鳴き声をあげる猫の瞳に近かった。
「あぁ、仕事を頼みにきた。その、頼めるか?」
雪野は自然とぎこちなくなった。
まぁそれまでだってそうなのだが。
「……」
少女は首をかしげる。右に、左に……右に……
首をかしげるのは癖なのだろうか。
「れんちゃに……、きかなきゃ、わかんない」
「いったい、そのれんちゃって何なんだ?」
先ほどから雪野は気になっていたらしいが。
「れんちゃは、れんちゃだよ」
彼女の返事はそんな在り来たりな、面白味もない言葉だった。
「(まぁ、思った通りだな)
じゃあ、そのれんちゃに会いたいのだが」
「ん……」
静かに唸ると細い指が雪野を差す。
「俺か?」「……ん」
彼女は違うと言いたげに頭を揺らした。
つまり、後ろと言いたいのだろう、雪野は少し面倒臭くも思えたが、素直に振り返った。
そして、そこに広がる秋の色をした木々を観察する。
なかなかと綺麗じゃないか、
なんて雪野は思ったりしたが、口には出さなかったし、出せなかった。
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