イラッシャイマセ

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ポツンと水場に置かれたカミソリを残して彼 ……いやもう雪野としようか。 雪野は朝食をとらずに汚いアパートの一室から出ていた。 朝食を食べなかったのは、何か気になる事が有るわけでもなく。 敢えて言わせて貰うならば、食べ物がなかったのだった。 実は雪野は真面目に仕事をこなす刑事だった。 だから上司にはとても気に入られている。 言ってしまえば静かな犬みたいな奴だと、 この前刑事部長が言ってたのを聞いたばかりだったりするが、 雪野は自分の生き方にあまり疑問を抱かなかった。 その生き方に 間違った事にさえも、嫌な事にさえも文句を言わない生き方に満足さえも感じていた。 それはさておき……、 だから雪野は毎日が忙しく、 食料を買う暇もなかったし、勿論もう買って来てくれる人間もいない。 意外な事は、その役割は数年前までは奇跡的に出会った、一生涯と思われるの妻がやってくれていたのだったが、 所詮は三年の付き合いだ。 雪野は彼が部屋に置いていったカミソリの如く独り残されたのだった。 しかし、それはもう確実に過去だった。 それより今の彼は、腹の虫を抑えながら、 寂れた市場を横切っていくのだった。市場は まだ何も並んでいない。 今の時間は皆、準備を始めたばかりだからだ。 まだ車も通らない道路の真ん中を悠々と雪野は歩いた。 特に何も考えずに、道に散らばった煙草の数を数え、100に達するかしないかの辺りで猫背の背中は、暗い路地へ曲がった。 そこは中心街への近道だったりする。 でも実は、それが本当かわからない。 彼にそれはどうでもよい事だったし、時間を計るなんて事は面倒くさい。 あぁ……、やっぱり彼は思ったよりも適当な性格なのかもしれない。
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