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雪野は薄茶色に染まった森を早足で歩いた。
落ち葉が踏まれ泣く音がした。"ここ"は秋なのだ。
では"ここではない所"はどうなのかと言えば、ふりかえれば青空に青々とした木々の葉が風に揺れていた。
この国にも四季はある。
今は夏だ。
聞くにはここは人造人間が来てから変わらないらしい。
彼らがきた秋のままらしい。
雪野もそれについては半信半疑になったが、実物を目の前にしては真実だったのだと確信するしかない。
それにしても、なにか物寂しさを感じた。
これが人造人間達の心情の表れなのかもしれない。
そう思うと自分の心にも寂しさが沸き上がる。
せめてたどり着いたら温かいコーヒーか紅茶が欲しい。
そんな親切なもてなしがあるなんて聞いた事はないが、今だけは何故かそんなアンニュイな気持ちでいたくなかった。
風が吹くとハラハラと落ち葉が舞う。
ふと……、なにやら花のような薫りがする。
振り返っても、その正体らしきものはなかった。
それに頭にはコーヒーカップに入った液体が浮かび、雪野にはそれについてはどうでもよかったし気にもならなかった。
彼はただ歩き続けた。
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