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それから二分としない内に礼の姿が見えた。
少しいつもの服とは違って、引き締まった服を着ている。
スーツほど堅苦しい物でもなく、例えるならバーのマスターのような感じだろうか?
礼の高くて細い体つきによくマッチしていた。
「…すまん、待ったか?」
すでに目の前まで来ていた礼の言葉で私は我にかえった。
「…えっ!?…あ、うん。」
我ながら情けない返事をしてしまった。…完全に妄想の世界にフェードアウトしていたなんて、死んでも言えない。
「…?聖さんは?」
礼が辺りを見回して言う。
そうか。お姉ちゃんは呼び出すだけ呼び出して、電話を切っちゃったんだ。
「…えっと、今日お姉ちゃんは…」
お姉ちゃんも居ると思っておしゃれして来たのかな…最初から私1人だって知ってたらどうしたんだろう。
「…風邪か?」
「…うん。」
だけど、次の言葉を聞いたとき、そんな不安はなぎ払われた。
「…聖さんには悪いけど、少し助かったかな…。」
と、小さな声で礼が呟いていた。
…え?…うそ…。
私と2人きりってことに少なからず喜んでくれてる?
その時、私はどんな顔をしていただろうか?
その瞬間から心臓の高鳴りは激しくなり、そのせいか体全体が熱くなっていく…。
「…!どうした!?顔真っ赤だぞ!」
私の変化に気づいた礼がびっくりしながら話しかけてきた。
どうやら、さっきの独り言を聞かれたとは気づいていないらしい。
「…ななな何でも…無いデス!…ハイ!」
興奮と緊張からつい声がうわずってしまい、片言のようになってしまった。
こんな事で、今日1日大丈夫なのだろうか?
体はあついし、心臓が絶えず自己主張を止めようとしない。
「…で、どこ行くんだ?」
話が途切れたのを見計らって、礼が尋ねてきた。
「…あ、うん。…えっと…。」
お姉ちゃんが考えてくれたデートプランの書かれたメモを取り出す。
「まず、美津地まで行って、それから映画館…。」
…そこで恋愛映画を観る…そのあと、ご飯。
突っ込みどころの無いベタな予定表だ。…なんともお姉ちゃんらしい。
「…んじゃ、まず電車に乗るか。」
そういって歩き出した礼について行くような形で私は駅に入った。
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