辺境の食堂調理師

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「本物」のルーニェ使いって凄いんだなぁ、なんて。 ボケていた俺でも、流石にわかる。 凄いのは「教育を受けたルーニェ使い」ではなく、ラヴィー(こいつ)だ。 火を自在に操るルーニェ使いが強いのは確かだ。 それでも、群れになったアイラスを恐怖で追い払い、全く周囲に影響なくアイラスの心臓と脳だけを焼き尽くすなんて、どう考えても普通じゃない。 ルーニェ使い全員がそんなことを易々とやるなら、この国はとっくの昔にルーニェ使いに乗っ取られているだろう。 いや、まあ、今だってルーニェ使いたちが結託してその気になれば、この国くらい牛耳るのは容易い。 ただルーニェ使いって政治とか興味ない人間が多いらしく、そっち方面で結託する兆候はまったくない。 だが、今のはダメだ。 たった1人で、たった1つのレッド・ルーニェで、あれだけの火を操ることが出来る――それはつまり、単騎で国の軍勢を蹴散らすことも出来ると言うことだ。 これまでの付き合いで、ラヴィーにはそんな考えはないだろうとは思う。 それでもこれは、危険過ぎた。 「ラヴィー、」 「大丈夫。わかってるよ」 口を開いた俺に、皆まで言わせずラヴィーが言葉を被せる。 「これは、最初会った時にその銀色の武器を使わせちゃったお詫びと言うか、対価で見せただけ」 その台詞に、数秒間。 俺の思考は停止した。 ——いや、ちょっと。 ちょっと待て。 いやいやいや。落ち着け、俺。 え、どういう意味? ただ単に、俺を驚かせてアイリスに見つかってしまい、本当なら逃げるはずだったのに戦う羽目になったことについてを詫びているなら、問題ない。 大いに反省はして欲しいが、過ぎたことだ。 結果的に家計も助かったし、怒ってもいない。 が。 もしかしてもしかしなくても、今の言い方からするに、異常には異常を、とか、秘密には秘密を、とか。 そういう意味、だろうか? 往生際悪く、認めたくはないが多分そうだよなそれしかないよな、と、頭を空回りさせる。 銀色の武器、とか名指しだしな! ————本当、ちょっと待って欲しい。 ルーニェの武器化については、ついこの間、長い付き合いで信頼厚い幼なじみに、漸く告白したばかりである。 それだって不測の事態がなければ言うつもりはなかったし、それにあの時は、前もってバレる覚悟をしていたのだ。 頼まれたとは言え、ネルを山に連れていくと決めたのは、俺だ。 だから身銭を切るくらいの覚悟は必要で、心の準備も出来ていた。 だが、これは。 不意打ちにも程がある! 掴めない奴だとは思っていたが、本当に掴めない。 最初から気付いてたならもう少し反応あってもいいだろ今更酷くないか? あーもう、なんて返せばいいんだよ!? 背中に嫌な汗をかきながら、ぐるぐると考えることしばし。 最終的に俺は、何か反論しようとして言葉が出てこなくて半開きになっていた口をそのまま閉じた。 解体用のナイフを手に、アイラスの死体に向かう。 「ソーマ?」 「……アイラス解体して、コヌギも取って、さっさと次、行こう」 ただの現実逃避だった。
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