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それは満月だった。
凍えるような光で、辺りは仄かに照らされ、県道から分かれた細い山道には街灯さえも無かったが、月明かりだけを頼りに、雪をかき分け一人の男が山道を登っている。
「はあっはあっ!」
モスグリーンのダウンコートを着込んでいるが、登山の格好ではない。
月の傾きから推測するに午前3時頃であろうか、こんな時間にこんな場所で何をしているのか、だが男は迷っている様子もなく、真っ直ぐに山道を登っていった。
「はあっ、はあっ!」
男の額には汗が滲んでいた。
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