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  仕事はひたすら金属を加工していくのを繰り返すだけの極めて単調な内容。 コンピューター入力された旋盤は寸分の狂いもなく同じ形に加工されていく。 オレは仕事が好きだ。 だが決してこんな労働が好きってわけじゃない。 オレが作ったこの部品はバイクの一部となる。 バイクのメーカーは部品を必要とする。 部品を作るためには作る人を必要とする。 その必要とされる一連の輪の中に自分がいる。 何もないオレにも仕事があるって思えた。 親からさえも必要とされていない、としか思えなかった自分が必要な人間だと思うことが出来た。 この世に存在する意味さえ見出だせていなかったオレには十分な必要だったのだろう。 単調なこの仕事は体内時間を鋭敏にする。 今や時計を見なくても誤差10分以内の高性能だ。 終業時間は仕事量に左右されるため定時はない。 定時がなくては体内時計なんて不要かもしれないが特技して持っているのも悪くないと思う。 ちょうど今日一日の仕事を片付けると体内時計では午後の6時20分。 時計を確認するとぴたり6時20分だった。 一人笑みがこぼれる。 こんなことで喜びと幸せを感じることができた。
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