391人が本棚に入れています
本棚に追加
「安心しなさい。悪い奴は私が追い払った」
「という事は…」
貴方は正義の味方?勇者?
なんて大袈裟に思ってしまう。
落ち着いた大人な声。憧れのテノールの声を持っている。声も良い。
恐る恐る振り向いてみると、びっくりした。
「!?」
「どうかしたのか?」
「いえっ、なんでもないです」
驚いた。知ってる人だから驚いたのではない。身長が180以上あるくらい高かったので驚いたのだ。
憧れのテノール声、憧れの長身、そして憎たらしいほどに美形だった。スーツもよく似合う。僕が憧れた男性像が具現化したのが目の前に立っていた。
だけど第一印象はちょっと怖い。
切れ長の瞳が睨んでいるようにみえて長身に見下ろされて、僕は思わず緊張で躯を石のように固まってしまった。
「……」
「あ、あの?」
何?なんでさっきからじっと僕を見るのだろう。
しかし暫くしたら視線は外れた。
「あの…」
気になって声をかけてみる。
すると長身の男はちらっとこちらを一度みてから“なんだ?”と言う。
怖い。助けてくれたけどどうも苦手だ。
初めて会う人に対して失礼だと思う。それに助けてくれた人に僕は感謝よりも怖いと思ってしまうなんて。
それでも僕は助けてくれたこの人にお礼を言った。
「……助けて、くださいまして、有難う、ございます」
弱々しい小さな声。
聞こえただろうか?
「………」
「う……あ、あの」
「気をつけなさい」
「え?」
「君は色々とああいう輩に好かれそうな顔をしているからな」
「ああいうって?」
「何も知らないことの方が幸せだ。いいね。また同じ目にあいたくなかったら電車に乗るのをやめるか早めに出るか何か対策するかしなさい。何度も助けられる保障はないんだ」
「は、はい」
最初のコメントを投稿しよう!