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「…――おい!!!遼の奴ぁ何処行きやがった!!!!」
屯所に土方の罵声にも似た声が響き渡る。
空は漆黒に包まれ暗雲が広がっている。
ポツポツと降りだした雨がやたらと耳につくそんな夜。
「歳…!!坂本くんはまだ帰って来ないのか!?」
ドタドタと近藤が土方に駆け寄る。
「かっつぁん…っ!」
「…一番隊への配属が正式に決まったばかりだというのに……まさか脱け出したわけじゃ…」
近藤は不安の色を隠せない。
土方はその言葉を聞けばチッと舌打ちをし、広間に皆を集めようと近藤に提案した。
「…そうだな!行き先を知ってる奴がいるかもしれん」
「とりあえずかっつぁんも手伝ってくれ…すぐに広間に来るようにと…」
近藤は力強く頷けば、じゃあまた後で…と踵を返し隊士の収集に向かった。
土方も取り敢えず手当たり次第部屋を覗き、隊士達に声を掛けた。
くそっ…
こんな時刻まで何してやがる…
こんなこと一度もなかったのに…っ
―――スパァン!!
「っ…総司!!!!!」
「ひ、土方さん…!?」
沖田は自室の襖が勢いよく開かれ反射的に肩をビクッと震わせ、声の主を見上げた。
沖田の瞳は涙で濡れ、真っ赤になっている。
灯りもつけずに部屋で項垂れる沖田の姿は、土方見ても異様だった。
「…総司……お前…」
土方は怪訝な目付きで沖田を見やる。
「……あ…あの、体調が悪くて……」
慌てる様子もなくポツリと呟く沖田。
だが視線は定まらず、伏せがちの目は宙を泳ぐ。
土方は沖田の側にズイズイと近寄れば両手で肩を掴み、沖田の体を揺らしながら鬼気迫る様子で問い掛けた。
「…遼がまだ帰ってない。総司、お前知ってんだろ?…あいつは…遼は何処に行った!?」
「帰って……ないんですか?」
沖田はゆっくりと土方の目を見て聞いた。
土方は一度だけ小さく頷けば言った。
「総司…知ってんなら話せ」
「……私が……私が……ッッ」
沖田はそこまで言えば、隻が切れたかの様にわんわんと声を上げ泣き出してしまった。
「……もう良い。話は後で聞く。取り敢えず総司は部屋にいろ。…わかったな?」
土方はそれだけ言えば沖田の返事を待たずに、皆の集まる広間へと急ぎ足で向かった。
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