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土方は広間へ入るなり、夜には似つかわしくない大きな声で皆に告げた。
「てめぇら!!!!坂本…坂本遼の居場所を知ってる奴ぁいねぇか!!!!」
この言葉を聞けば、静まりかえっていた広間が一瞬のうちにしてざわめきに包まれる。
最初に叫んだのは藤堂だった。
「…遼ち……坂本さんが帰ってないんですか!!?」
「もう夜も深い…無事だと良いのだが…」
斎藤が不安の色を含み呟く。
「おいおい!物騒なこと言うもんじゃないぜ斎藤!」
「でも…その可能性も…拭えないよ左之」
原田、永倉と言葉を続ける。
皆悪い予感が頭に過る。
辻斬りにあってはいないか…
事件に巻き込まれてはいないか…
遼はまだ真剣で立ち合ったことが無いというのを、皆知っている。
だからこそ不安が拭えない。
ふいに土方が、静かにしろ!と皆を一喝した。
その瞬間再び広間は静寂に包まれる。
暫しの沈黙が訪れた後、土方は静かに問い掛けた。
「……お前らは…どうしたい?」
その言葉に皆は顔を見合わせざわついた。
どうしたいって…
あいつが脱走するとは考えられない…
やはり何か事件に…
そんな声が行き交う中、一人の男が立ち上がり声を上げた。
「…土方さん!そりゃぁ愚問ってやつよ!…捜しに行く。返事はそれしかねぇだろ!」
そう告げたのは原田だった。
藤堂も立ち上がり言った。
「俺は…遼ち……坂本さんが居なくなったら嫌だ!…俺も捜しに行きます!」
「…同じく」
斎藤も立ち上がり、それに続けて永倉も立つ。
「仲間が困ってるかもしんないのに…ほっとけないよね」
それからつられる様にして、次々と隊士たちは立ち上がり遼を捜しに行くと告げた。
この光景に土方は何とも言えない妙な気持ちが込み上げる。
たった一人の奴の為に…
これだけ多くの仲間の心を掴んでいるお前は…
すげぇよ…遼…
土方は小さな溜め息をつけば、仕方ねぇな…と悪態をつくが心底嬉しさに満ちた声で言った。
「そうと決まれば…すぐに仕度を整えて門に集まれ馬鹿野郎ども!!!!!」
「うぉし!そうこなくっちゃな!さすが土方さん!!!」
土方と原田の声を合図に皆準備に取り掛かる為、足早に自室へと戻って行った。
余談だが…近藤がこの光景に感動し泣いていたのは言うまでもない。
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