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――
一方新撰組屯所では…
既にほとんどの隊が捜索を引き上げ、屯所へと戻り皆濡れた体を手拭いで拭いていた。
「…遼ちん…何処行ったんだろ」
「あまり…考えるな。考えても仕方がない」
斎藤は寂しそうに呟く藤堂の髪を拭いてやっていた。
「でも…考えちゃうよ。俺、遼ちんが来てから、兄ができたみたいで…嬉しかったんだ」
「うむ…」
「なのに遼ちんってば…何処行っちゃったんだよぉ……」
普段明るく振る舞い涙など一切見せない藤堂が、涙で頬を濡らす。
斎藤は優しく言い聞かせるように言った。
「心配ない…必ず、必ず坂本さんは帰ってくる」
藤堂は斎藤にすがりつく様にして泣いた。
たった一人の隊士が欠けただけなのだが、まるで希望の光が失われたかの様な錯覚に陥る。
いや、あながちそれは錯覚ではなく事実なのかもしれない。
坂本遼という異彩の存在。
この時代にはなかなか居ない柔らかな青年。
何事にも懸命に取り組み、分け隔てなく皆と仲が良く、いつも笑顔で少し泣き虫な…優しい心を持った青年。
その男の存在は、もう新撰組にとってはなくてはならない存在だったのだ。
皆ぽっかりと心に穴が空く。
"皆さんそんな顔して…何してるんですかー"
って何もなかったかの様に、帰ってくるんじゃないかと…
誰もがそう願っていた。
「なぁ、しんぱっつぁん」
「…なに?」
「俺…あいつが生きてりゃそれで良いや」
「…そうだね」
「でもよ、もし…もし帰って来たらぶん殴る」
「俺も」
「しんぱっつぁん……総司は、大丈夫かなあ…」
原田も永倉もただ降りしきる雨を見つめ、思いを馳せた。
もし、帰ってきたら。
そう願わずにはいられなかった。
――――――
土方は沖田の部屋を訪れていた。
濡れた髪も体も服もそのままに。一本の刀を握りしめて。
そしてその刀を総司の前に、静かに差し出した。
「この刀に…見覚えはねぇか?」
そう一言だけ告げると土方は鋭い眼光で沖田を見据えた。
沖田は嫌な予感が頭を過り、その刀を力無く見つめ手に取った。
震える声を必死におさえ、土方に言った。
「…遼さんの……刀です」
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