318人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうか…」
土方はそう呟けば、沖田に経緯を話した。
隊の皆で遼の捜索にあたっていたこと。
そして橋の側でこの刀を見つけたこと。
宗次郎という名が刻まれていた為、もしかしたらと思い持ち帰ったこと。
「…遼さんは…見付からなかったんですね…」
沖田は確かめる様に、でも何かを確信しているかの様に言った。
「総司…お前、何があったんだ?」
土方は捜索の前から様子のおかしかった沖田に問い質す。
瞳を揺らしながら、けれど覚悟を決めた様子で沖田はゆっくりと話し出した。
「私が…出ていけと…言ったんです」
土方はその言葉に目を見開いたが、口を挟むことはせずに沖田の話に耳をやった。
「遼さんは…此処に居るべき人じゃない。遼さんの居るべき場所に…帰って欲しくて…」
「…居るべき場所?」
さすがの土方もその言葉には怪訝な目付きを見せ口を開かずにはいられなかった。
沖田は土方の発言が耳に入っていないのか、それには触れず話を進めた。
「あの人は此処に居るべき人じゃない…。でもそう言ってしまったことに…後悔をしています。…私は……もう遼さんが本当に帰って来ないんじゃないかって……こんな私に愛想をつかせて…元居た時代に……ッッ」
沖田は溢れそうな涙を止める為唇を噛み締める。
すると土方は凄い剣幕で沖田に詰め寄った。
「…おい総司!!…居るべき場所って…元居た時代ってどういうことだよっ!?」
何を隠してんだ?!と捲し立てる。
沖田はハッとし目を泳がせるが、土方からは逃げられない。
土方は先程とは打って変わって、ゆっくりとした口調で問い掛けた。
「総司は…何を知ってるんだ?遼の何を…知ってるんだ?」
沖田の心は揺れていた。
もしもう本当に遼が帰って来ないのならば、秘密を打ち明けても良いのではないか…
そしてもし帰って来ても秘密を打ち明けていれば、脱走の罪は問われないのではないか…と。
遼さん…約束を破ってしまうこと…
許して下さい。
沖田は揺れる心にそう呟き
もう弱い心を捨てよう。
遼さんが私の心を救ってくれた様に、今は遼さんの立場が悪くならない様に…
今度は私が遼さんを支えよう。
と、意を決した。
そして沖田は、いつもの強い瞳で土方を見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!