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5月も半ばを過ぎ、梅雨ということもあり連日雨がしとしとと降り続いていた。
屯所に遼の姿は無い。
遼が消えてから2週間が過ぎようとしていた。
願いは祈りに、祈りは怒りに、怒りは諦めに…
皆遼のことはもう忘れよう、と思いに耽る。
沖田から笑顔は消え去り、土方もどことなく苛立ちを隠せない日々。
近藤はただただ心配し、山南はどこか自責の念に駆られる。
斎藤は戻ると願い続け、藤堂は家族が一人減った悲しみを隠せない。
原田と永倉はそんな皆を励まし続ける。
しかし新撰組も、ただ一人欠けただけでずっと落ち込んでいるわけにはいかない。
少し前から京で頻発していた火事。
その首謀者達が最近何かを企んでいるのか、頻繁に集会をしているそうなのだ。
新撰組は京の治安維持を職としている為、見過ごすわけにはいかない。
悲しみや苛立ちに明け暮れながらも、それぞれ職務もこなしていた。
「それにしても…毎日雨ばかりで嫌になりますねぇ」
沖田は山南と甘味屋まつのに来ていた。
店内に響き渡るザァザァという雨音を鬱陶しそうに、沖田は言った。
山南も苦笑を漏らしながら頷く。
「今年はいつもより雨が多いね。こんだけ降られては農家の人も大変だ」
「そうですねぇ。…きっと多摩の方も苦労しているでしょうね」
「皆かわりないだろうか。久々に帰りたいものだね…故郷にも」
「ええ。…本当に。……ねぇ山南さん」
沖田は神妙な面持ちで問い掛けた。
「なんだい?」
「私たちは…いつまで続けるんでしょう」
「総司…」
「いつまでこんなこと…続けるんでしょうね…」
こんなこと。
それは初めて沖田が漏らした、新撰組に対する疑問だった。
治安維持だと言っては人を斬り、報酬を貰う。
素晴らしい働きだった、と。
人を殺してお金を貰う。
いつまでこんなことしなければいけないのだろう。
遼が消えてから、沖田はそう考えることが多くなった。
そして、沖田はこんなことを遼にさせようとしていた自分を悔いていた。
土方や近藤には言えない疑問。山南にだからこそ言える。
「…総司、君はまだ若い。自分の思う様にしなさい」
沖田は俯き、何とも言えない哀しみに襲われ、涙を一粒…落とした。
こんな時に思うんだ…
遼さんがいたら…って
遼さんの笑顔が見たい…
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