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それから山南と沖田はまつのを出て、傘をさし少しばかり散歩をした。
「総司…僕はね、前々から疑問を抱いていたよ」
何を、などと聞かなくても沖田には山南が何を言いたいかすぐにわかった。
「山南さんは優しいですから。…人斬りは似合いません」
「ははっ…総司も優しいじゃないか。それにね、人斬りの似合う人なんて居ないよ」
「……私は……ッッゴホッ…ゲホッゴホッ…ッッ」
沖田は急に込み上げてきた咳に、体を曲げ口を抑えた。
そのせいで少し背中が濡れる。
雨粒が、やけに冷たい。
「…風邪かい?最近よく咳をしているだろう?」
背中に山南の温かな手が落ちてくる。
優しく背中を撫でる手。
沖田はゆっくりと体を戻し、笑顔で山南を見た。
そして…告げた。
「風邪こじらせちゃいました!…嫌になります本当に…」
山南は労る様な表情で沖田を見た。
「…今日はもう帰ろうか。体に障るからね」
「もう少し…もう少しだけ散歩しませんか。……最近屯所……息苦しくって」
傘で沖田の表情は見えない。
だが声が少し震えていた。
息苦しい。
遼が消えてからの屯所は覇気を無くし、遼と仲が良かった沖田に皆気を使う。
沖田も皆に愛想を振り撒く。
目は、笑っていない。
本当の笑顔など忘れてしまったかのように。
そんな日々に疲れたのだ。
人を斬ることよりも辛い。
皆に自分を偽ることが。
そして何より、己の誠に疑問を持ってしまったことが辛い。
信じる物、己の誠、大切な友人を失くしてしまった今、何を信じ何を目指して剣をとれば良いというのだろう。
「じゃあ…あと少しだけだよ」
山南は沖田の気持ちが痛いほどわかるのか、苦笑を漏らしながらも了承した。
「すみません…我が儘に付き合って頂いて…」
「総司が…元気になるなら、良いんだ。それで笑顔が戻るなら」
「山南さん……」
山南のその一言に涙が溢れだし、掠れた声で沖田はありがとうございます…と途切れ途切れに告げた。
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