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力の限り、走った。
皆のいる屯所へ。
新撰組の元へ。
遼は転けようがつまづこうが、ただひたすらに走った。
顔に当たる雨など気にしない。
袴が泥で汚れようが気にしない。
足の裏が血だらけになろうが気にしない。
戻れた……!!
戻れたんだ…!!!!
幕末に…!!!!
「ハァッ…はぁっ……!」
もう少し…
あともう少しで…
遼は新撰組の屯所が近付くと、走る足を止めゆっくりと歩んだ。
皆…俺を受け入れてくれるかな…
俺はこの時代では…どれくらい不在してたことになるのかな…
屯所が一歩、また一歩近付くにつれ遼の足は震え、心臓がうるさいくらい脈を打つ。
そしてやっとの思いで屯所―前川邸―に着けば、門前で足を止めた。
「……ただいま」
遼はなんとも言えない気持ちのまま小さな声でそう呟けば、ゆっくりと門をくぐろうとした。
その時。
自分の左側からカシャンと物音が聞こえ、ちらりと目をやった。
「………ッッ…!!!」
遼の目には、傘を地面へと落としただ呆然と此方を見つめる沖田の姿が入り、門をくぐろうとしていた足を止めた。
沖田の隣では、山南が目を見開いて此方を見ていた。
「……りょ……遼さん…」
沖田は雨に濡れることなど気にも止めず、何かに誘われる様にゆらゆらと遼の側へ歩んだ。
そして遼の服を両手で掴み存在を確かめれば、ズルズルとしゃがみ込み地面に膝をつきながら言った。
「……なに…してたんですか…ッッ…今まで…っ…なにを…ッ」
遼は立ち尽くしたまま、静かに沖田を見れば、視線を合わせるかの様にゆっくりとしゃがみ込んだ。
「…ごめんね…」
「ぅッッ…ふぇ…っ……心配…したんっ…ですからぁ…ッッ」
嗚咽が混じり上手く喋れない。沖田の涙を隠すように、雨が二人を包み込んでいた。
沖田の体が震えている。
遼は咄嗟にグイッと沖田を抱き寄せ、強く、強く抱き締めた。
「ごめん……っ…もう何処にも行かない…ずっと側にいるから…」
「ぅ……うわぁぁぁん」
沖田は遼の胸で声を張り上げて泣いた。
人目などどうでも良い。
友が帰ってきた…
もう帰って来ないと諦めていた友が帰ってきた
その事実だけで十分だったのだ。
遼の声も顔も匂いも温もりも…全てが懐かしく感じた。
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