317人が本棚に入れています
本棚に追加
京都、伏見は寺田屋。
川沿いに面した船宿。
遼は何故かここまでの道程を知っていた。
デジャウ゛とでもいうのだろうか。
この寺田屋も、見れば見るほど懐かしさが込み上げてくる。
そして遼は知っていた。
ここの女将さんがお登勢という名だということも。
いや、思い出したという方が正しいか。
薄れつつあった夢の中の記憶が、鮮明に甦ってくる。
「お帰りなさい坂本はん」
扉を開けて中に入れば、早速お登勢が出迎えてくれた。
お登勢さんも…夢で見たまんまの顔だ…
「あら、そちらの方はお客人様?」
「おぅ。すまんがお登勢さん、ゆっくり話がしたいき暫く誰も通さんどってくれんかのぉ」
「へぇ。もし誰か訪ねて来はっても追い返してええんどすか?」
「構わんき。ほなよろしく」
遼はお登勢に軽く会釈をして、龍馬の後をついて部屋に上がった。
龍馬は腰のモノを外せば、端の方へポイッと投げ捨てた。
それはガチャンと音をたてて虚しく横たわる。
「俺にはこのピストルっちゅー強い味方がおるき。刀なんぞいらん」
そう言いながら胸元からチラリと銃を覗かせる龍馬。
遼はそれが威嚇だとわかり、不安が募る。
心臓の音が今までにないくらい、大きく鳴り響く。
「まぁこっちゃ適当に座りや」
「あ…はい」
「そうかたくなりなや」
誰も殺そうちゃ思おちょらん…と、胡座をかいて頭をポリポリと掻く龍馬。
「ほんで…なんじゃったかのぅ。おまん、なんしにここへついて来たんじゃぁ?」
「………へ?いや…龍馬さんが寺田屋でゆっくり話そうって……え?!てか俺が勝手についてきたことになってるんすか?!」
遼は龍馬があまりにとぼけたことを言うものだから、つい緊張が弛んでしまう。
「お~っそうじゃったそうじゃった!いやぁ最近悩み事がこればぁいっぱいあって、色んなことを忘れてしまうがぜよ!」
すまんのぉ、と龍馬はおどけて見せる。
遼にとって龍馬は本当に不思議な人だった。
怖い顔をしたかと思えば、次の瞬間には子供のように笑う。警戒しているかと思えば、そんなことを微塵も感じさせない無防備さ。
本当にこれが、あの夢の中の自分……龍馬なのかと疑ってしまう。
「さぁ思う存分話しぃや。聞いちゃるき」
龍馬は寝転びあくびをしながら言う。
この人……ふざけてる!!!?
遼は顔が引きつった。
最初のコメントを投稿しよう!