星に願うは君に幸あれ…

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「…あぁ?……そういうのはなぁ、口に出さねぇ主義なんだよ」 それだけ告げると土方は再び、土方特性の重い木刀で素振を始めた。 「お前も素振しに来たんだろ?さっさと始めねぇと皆起きちまうぜ」 「ぁ…はい!」 遼は土方の横に並び、素振を始めた。 俺は…かっつぁんを大名にするんだ… 立派な武士になって… 武士になって…… それから俺は… 土方は手を止め、立ち尽す。 「なぁ遼。…お前の夢はなんだ?」 土方は自分の考えていた未来が、あまりにも漠然としていた事に気付く。 きっと、ずっと…こいつらと共に戦うなんてのはあり得ねぇ 新撰組は…俺の将来への踏み台に過ぎない でももし…新撰組がなくなったら、俺はどうする? どうなる? 土方はただ静かに遼の返答を待つ。 遼は素振りを止めることなく、口を開いた。 「俺の夢は…大切な人たちが…笑顔で暮らせること…ですかね」 その手助けができるなら良いな、と素振をしながら告げる遼は前だけを見据えて微笑んでいた。 「…生ぬるい夢だな」 「そうっすか?でも…俺はある人に誓ったんです。…大切な人たちを救う、って」 土方は眉間に皺を寄せ、木刀を振り上げる遼の腕を掴み静止させ、威圧的な声で言った。 「お前……壊れるぜ?」 壊れる… 大切な人が増えれば増えるほど、守るものが多くなる。 それを守りきれなかった時の、己に降りかかってくる反動は間違いなく大きい。 その反動に耐えきれずに、己が壊れてしまう。 土方は、そう言いたかった。 遼はそれを汲み取り、答えた。 「何もしないでいるくらいなら…何かをして壊れる方が、ずっと良い」 土方の目を真っ直ぐに見つめ自分に言い聞かせるかのように、言った。 少し偉そうだったかな、と慌てて思った遼は…まぁ自己満足っすけどね、と付け足した。 土方はその言葉を聞き目を見開いたが、すぐにハハッと小さく笑い遼から手を離し言った。 「お前……似てるな」 遼は、誰に?と思ったが敢えて聞かなかった。 聞いても土方は答える気がないだろうと思ったからだ。 「あ~そういや、お前…今日餅つきするって知ってるか?」 「…はぁ!??」 「江戸にいる頃から今日は餅つきの日って決まってんだよ。稽古と思って沢山つけよ」 唖然としている遼を横目に土方は笑って言った。
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