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「土方くんは試衞館の頃は…あんな感じだったよ。誰よりも声を張り上げて、率先して餅つきしてた」
「……」
土方は誰に聞かれているわけでもないのに、バツの悪そうな表情をしていた。
「そうそう!思い出したよ!…僕が"餅つきなんかにそんなに精を注いでどうするんだ?"って聞いたら……」
山南は思い出し笑いを堪えるようにして続ける。
「"餅の神様にお願いしてんだよ!強くなれますように!って"…とか大真面目な顔して言うもんだから…っぷッッ」
山南は笑いを堪えられなくなりつい吹き出してしまう。
「なっ……んなことまだ覚えてんのかよ!!!」
「ははははは!いやぁあの時の君は最高だったよ!」
土方は眉を寄せ口を尖らせ、不機嫌そうな顔をしていた。
山南は笑い涙を指で拭いながら、土方に問い掛けた。
「…なれましたか?あの頃君が望んでいた男に…」
土方は少し考えたあと、山南に告げた。
「………なぁサンナンさん。俺は強くなれば、何でも叶うと思ってた。…でも違うんだな。思い通りになんねぇことばっかだ」
「土方くん、僕はね…皆が笑っていられたら…それで十分じゃないか、と思っているんだ」
「………」
「大切な仲間たちが…今日みたいに笑っていられたら…ってね。君に言わせてみれば…甘いかな?」
土方は山南のその言葉と、今朝遼が告げた夢が重なり…
やっぱりこの二人は似てるな…と改めて思った。
「いや…甘くねぇよ。サンナンさんらしい夢だ…」
「ははっ僕の考えを肯定するなんて珍しいな」
「あんたの考え聞いてると…自分に腹が立ってくんだよ。自分の小ささに嫌気がさしてくる」
初めて聞く土方の言葉に、山南は目を見開いた。
「あんたはいつだって優しい…きっといつだって皆の太陽だ…」
「なんだか…くすぐったいなぁ。土方くんは…十分優しいじゃないか。近藤さんや僕のかわりに、鬼を演じてくれている」
「…ッッ……」
「わかる人にだけわかる優しさがあれば十分でしょう?…試衞館の人たちはちゃんと分かってますよ」
あなたは本当は優しい人だって、と山南は土方の肩を抱いた。
「いつも辛い役回りをさせて…すみません。僕は今のあなたも好きですよ」
その言葉に柄にもなく土方は、頬を一筋二筋と濡らした。
「そう思うならずっと隣にいてくれよ…サンナンさん…」
土方は濡れた頬をそのままに呟いた。
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