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あんな時もそんな時も山崎は屯所に居たという。
遼は一度見た顔は忘れないのが特技だが、山崎の顔は絶対に一度も見たことがなかった。
それを山崎に告げると、山崎は笑いながら答えた。
「それは…あれやな!俺が結構な確率で化粧やら変装やらしとるからやわ!」
「…女装趣味?」
「あほか!仕事柄や仕事柄!薬売りに化けたり、医者に化けたり、饅頭売りに化けたり…時には女にも化けたりすんねんで」
ほぉ~…と遼は感心した。
この時代にこんな仕事があるなんてなぁ。
やっぱ潜入捜査官?
そういうスリルのある話が好きな遼は、山崎に仕事について訊ねてみた。
が……企業秘密とのこと。
「仕事の話は局長か副長にしかしたらあかんねん」
「なぁんだ。つまんないの」
「はははっ…ほら、敵を騙すにはまず味方からって言うやろ?まぁ俺の存在に気付いてへんかったってことは、味方もちゃんと欺けたっちゅーこっちゃな」
山崎は得意気に笑った。
「その格好も変装用ですか?」
遼は山崎が身に纏う忍者の服を指差して聞いた。
「まぁそんなもんやな。今、天井裏張り込み調査の訓練しよるから…まずは服装からでも忍に近づきたい思ってな!」
「形から入るんですね」
「ええやろ別に!」
「悪いとは言ってないです」
山崎はうーんと唸った。
「ところで坂本くん、あんた土佐藩脱藩坂本龍馬とはなんや関係あるんか?」
「え…なんでですか?」
遼はすまして言った。
「見たって奴がおんねん。二人でおるとこをな」
一瞬にしてサァァと顔の血の気が引く遼。
「…人…人違いじゃないですか?」
「いや…二人を見たんは……俺自身やから間違いあらへん!」
「……」
「さぁ白状して貰おうか」
「…有りもしない罪をなすりつけないで下さい!」
遼はしらを切った。
山崎は深く溜め息をつけば、まぁええわ。と吐き捨てるように言った。
「その内わかることやしな。…あんまり好き勝手せぇへんがええで。坂本くん」
その忠告に遼は冷や汗が出る。
「不逞浪士との密通は、例え仲間だろうと罰を受けるんが決まりや。…せやから、そうならん為にももう寺田屋には近づきなや」
まだ死にたくあらへんやろ?とニッコリと笑いながら山崎は言う。
遼は茫然と立ち尽くしたまま、返事すらできなかった。
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