そして奴らは非凡です。

8/12
前へ
/40ページ
次へ
  この距離からでも、彩鷹の表情が険を帯びたのを朋貴は感じた。 しかしながら、別段問い掛けても問題はない素朴な質問の筈である。 警戒するように睨み据えてくる彩鷹の思考には百に近い可能性が巡っているだろう。 こんな平凡に可能性も何もないだろうに。 呆れを感じつつも、朋貴は普段通り感情を荒立てぬ表情で問い掛けた。 「・・・・此処は、居てはいけませんか」 「―――・・・。」 「危険ですか?」 返答はない。 と言うよりは、どう答えようかと思案しているようだった。 YesかNo。 それだけが答えなのに何を考え込む必要があるのか。 どう答えられようとも戸締まりをして帰るつもりながら、朋貴は尚も問う。 「一宮先輩、」 「っせぇぞ死にたくねぇなら帰れ!!」 返答は怒号だった。 最早脅迫に近い命令に、朋貴は彩鷹という男の不器用さを感じる。 然しながら、困ったものである。 死ぬ程恐ろしい体験は出来る事ならばしたくはないのだが、如何せん 「・・・無理っぽいです」 彩鷹を取り囲む、確実に盟劉の者ではない集団を見て無事に帰れる気はしなかった。 下品に笑いながら彼を囲む集団は、朋貴の存在など興味はないだろう。 しかし、目撃者が平穏無事に逃れられるような話は聞いた事がない訳で。 喧嘩は好きじゃないな。 心底そう思いつつ、朋貴は傍観に徹する事しか選択肢が無いなと諦めた。 「彩鬼(さいき)、久しぶりだな」 「・・・学園に侵入たぁ良い度胸だwors」 (部外者いるんだからその名前使うなよ) 傍観者も気にせず進む会話は、まるで陳腐な不良モノの映画である。 ストーリーの粗筋を知る朋貴にとっては、もう何が起ころうとも驚く理由がないのが一番問題だ。 何やら会話している姿から、ふとヒラヒラ落ちてきた木の葉を見遣る。 ――その瞬間、彩鷹の見事な上段回し蹴りが一人の男へと炸裂した。 倒れ伏した男の周辺を砂が舞う。 集団がざわつく中、彩鷹はそれはもう激しい怒号をあげた。 「テメェ等、この四鬼総長 彩鬼に勝てると思うなよゴルァアァアアア!!」 ああ先輩 無駄に情報を暴露しないでくれ。 (元から知ってるけど、出来れば知らない顔して関わりたくないのに) そんな朋貴の嘆息は勿論届くことなく。 木の葉が舞い落ちる速度よりも早い殴り合いを横目に、今日の夕飯はレトルトだなと確信を抱いた。  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加