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小鳥の囀りと窓から差し込む日差しが朝の訪れを告げる。
睡魔にまだ浮つく思考の中カーテンを開ければ快晴。心地良い。
階下からは恋人が自分の為に朝食を作る匂いと音がする。
ああ、なんて素晴らしい朝だ。
「っていう起床をしてみたいんだ」
「そうか、」
好きにしてくれ。
心の底から感じた事を告げ、青年は鞄から読みかけの分厚い小説を取り出した。
何と言う人生のロスタイムだ。親類縁者、いや世界中に謝ろう。
くだらない話に付き合って人生のひと欠片(時間に表すと2分47秒)を無駄にしてごめんなさい。
「このロマンが分かるか朋貴」
「訂正しよう、貴様が世界中に謝れ」
「何故だ心の友よ」
「腹立たしいからだよクラスメイトAよ」
文字の羅列を追いながら淡々と告げる。
序盤だからかストーリーが全く読めない。正直、どういったジャンルの本なのかさえ彼は知らないのだ。
暇潰しになりそうだ、と(その分厚さを)一目見て買った故の無知である。
まぁホラーっぽくはないし、死にはしないだろう。心配ない。
「ともたかーともちゃーん」
「何でしょう」
「ウィンナー&スクランブルエッグにサンドイッチに珈琲を用意されたいんだよ」
「知らねーよ」
寧ろ心配なのは友人の頭だ。
呆れと苛立ちを込めて口を開いたというのに、まだ懲りずに彼は語り出す。
主人公の危機を読み取りながら友人らしき者の理解不能な言葉を聴き続ける。
そんな自分を青年はなんて心優しい人間かと涙が出そうになった。
というか、この状況は脳みそが疲弊して可哀相だ。
先程と全く同じページへ栞を挟み本を閉じる。
・・・キラキラした目がウザい。
「村田」
「なんだ原」
「外国人の彼女でも作れ、毎日クロワッサンとスクランブルエッグは用意してくれるだろ」
なので、先週フラれた可哀相な村田くんにちょっと意地悪な言葉を向けた。
「うわぁあん、俺はすみれちゃん一筋なんだからぁああ!」
教室から走り去る際に、野太い声が残した言葉にしてやったりと小さくほくそ笑む。
そんな青年、原 朋貴(はら ともたか)が自己分析するなればただの平凡です。
正確に言うなれば
この学校での『非凡』は、二次元に住めそうなレベルじゃないといけないと思う訳である。
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