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「相変わらずだな」
「先輩こそ」
私にこんな事言われたら、大抵の人は泣いて喜びますよ?
志乃の言葉を笑い飛ばす選択肢はない。
間違いなく事実であろう。
桂木 志乃を調べた事がある。
様々な噂は存在しているが、紛う事なき真実を言えば桂木財閥のお嬢様だ。
「生粋のお嬢様がそんな事言わないほうがいいと思うけどな」
「先輩だけです」
「そりゃどうも」
朋貴は志乃から向けられる視線を気にせず、鞄から小説を取り出した。
今朝邪魔をされ読む事の出来なかったそれを机の上へ置く。
隣に腰掛けている志乃は、そんな朋貴をただ静かに見ているだけで何もしてこない。
これが少しだけ不思議だった。
「桂木」
「はい?」
「つまらないだろ」
大きく目を見開いて、志乃は不思議そうに朋貴へと視線を向けた。
なにを言い出すのかとでも言いたげな表情だ。
だが、朋貴は大分前から心底そう感じていたのである。
何もせず、時折言葉を返すだけの平凡な先輩と共に過ごす時間。
何が楽しいのかさっぱりだ。
俺なら耐え切れない、と告げる朋貴へ志乃は苦笑を浮かべた。
「あなたって人は・・・」
「なんだ?」
「・・・いえ、何でもありません」
先輩って鈍感ですよね。そう溜め息を漏らす志乃は何処か悩ましげだ。
この旧図書室に現れる志乃は朋貴へと様々な表情を見せる。
噂で聞く桂木 志乃は他人に無関心、無表情と最早別人と思える人格の持ち主だ。
朋貴はさしてそれを気にしない。
噂は噂だ。それも「無関心」「気弱」「毒舌」と統一性がなく信憑性が無い。
否、信憑性があろうと無かろうと興味は無かった。
朋貴の知る志乃はそんな噂など気にもせず
くるくると表情を変えるからだ。
また、新たな表情が美しい横顔に浮かぶ。
冷ややかな表情を浮かべた志乃の視線を追えば、そこには人だかりがあった。
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