そして奴らは非凡です。

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  「聖、そろそろ宜しいかしら?」 「彰子」 「申し訳ないですけど、あまり時間がありませんの」 「藤壺の君は噂に違わぬ美人だな」 「先輩はああいう人がタイプなんですか」 「いや?頭のいい女は好きじゃない」 生徒会長、否・・・生徒会長を囲む一般生徒達へと笑う冷ややかな声音。 クールビューティ、と言うよりは多少刺々しすぎる雰囲気だ。  そんな事を考えていると右隣から紫色の禍々しいオーラを感じ、朋貴は静かに問い掛けを否定した。 藤壷。聡明で美しい彼女は、かの平家物語に登場する女性の名で呼ばれ親しまれて・・・否、崇められている。 3年S組、藤堂 彰子(とうどう あきこ)。 日芸の家元、藤堂家の跡取りでありこの学園の生徒副会長である。 颯爽とした一挙一動、含み笑いに告げる確かな刺々しさ。 朋貴の中で、彼女の印象はまさに『近寄りがたい美人』である。 視線を落とした。一般生徒に軽い挨拶をして二人は学園庭園へと向かっている。 恋人と噂される二人は、確かに会長と副会長という括りでは説明できない何かを感じさせて。 「あと他人の女は願い下げだ」 平凡が何をほざくって話だけどな、と笑う朋貴へ志乃は困ったように笑う。 自身に向けられる情に鈍感な彼は志乃の複雑な心情など気付きもしない。 今日の夕飯は何にしようか、などと呟く姿に志乃はそっと嘆息する。 惚れた弱みというものだ。 長期戦を予想しつつ、志乃はぶり大根がどうのと呟く朋貴へと声をかけた。 「先輩」 「何だ桂木」 「なんなら私がお作りしましょうか?」 突然の申し出に、朋貴はとても驚いたように志乃を見遣る。 あまり感情を荒立てない朋貴のそういった表情はなかなかにレアだ。 新しい朋貴の顔を知れた事に気分を良くしながら、志乃は微笑みを絶やさない。 「・・・いや、遠慮するよ」 そしてまた、桂木 志乃を自室に招いたという無駄に騒がれそうな行為を目立ちたがらない朋貴は望まない。 最初から答えを分かっていた志乃は、それに不満も見せずに頷いた。 家柄なんか関係ないのに。 Sクラスも、桂木の家も関係ないのに。 (それが平穏を望む朋貴に強く想いを伝えることを拒ませる要因なのである)  
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