そして奴らは非凡です。

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  「じゃあ私そろそろ行きますね」 「桂木」  青が茜色に染まる頃、何をするでもなくそこにいた志乃が静かに立ち上がる。 それを視界の隅に捕らえたが、別段引き留める理由は無かった。 振り返った志乃の表情はきょとんとしていて、全く噂とは適当だなと呆れそうだ。 無関心で毒舌で気弱との噂を持つ少女へ、朋貴はそっと告げた。 「あー・・・また、明日」 「・・・・ぇ、?」 ひどく驚かれた。何をそこまで、と思ったが志乃は暫く呆然と立ち尽くしている。 不思議な言葉ではないはずだ。 今や誰も訪れない此処で毎日、二人は放課後に顔を見合わせているのだから。 朋貴がもう一度名前を呼ぶ。志乃は、ひどく照れたように朋貴へ微笑んだ。 「・・・いえ」 「?」 「また明日ですね、朋貴先輩」 あまりに幸福そうな顔で笑うものだから、一瞬反応に遅れた。 「そうだな」と返す頃には志乃はもう学生鞄を手にするりと扉を抜けていて。 こちらを省みながら、やはり上機嫌に頭を下げて消えた志乃の揺れた灰色の髪を思い浮かべながら朋貴は気付いた。 (またとか、今度とか) (志乃に『次』を感じさせる言葉を言った事は初めてだった) 他人と深く関係を持つ事は嫌いだ。 だから、『次』が有るのも嫌いだった。 しかし・・・自分が思っているよりも、朋貴は桂木 志乃を気に入っていたらしい。 何とも言えない気分だった。 だが口元は勝手に緩み、志乃を好いている己をつい微笑ましく感じてしまって。 「・・・また、か」 自分が口にした『次』をもう一度呟き、朋貴は窓際へ立った。 明日また開ける窓ながら、しっかり戸締まりしておかなくてはと腕を伸ばす。 しかし、ふと朋貴の動きは停止した。 見てはいけないものを見てしまったような気がした。 ・・・気のせいだ、きっと幻覚。 「―――おいテメェ、何してやがる」 ・・・残念な事に幻覚では無かったらしい。 勢いよく窓を閉め逃亡したい気持ちを押さえつつ、朋貴は小さく項垂れた。 しかしながら、項垂れたら地上から2階を見遣る人物と目を合わせることになる。 空を仰ぎ見ればよかったな。 心底そう思いつつ、朋貴は相手へすみませんと謝罪を口にした。  
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