黒と三十路

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『先生って見た目によらず意外と深い事を考えるんですね』 少し皮肉に物を言い過ぎたか。 けれどもその言葉に嘘はなかった。 まだ30歳前後と思える若い容姿から、先程難しいことを訊いてきた人物なのだとは思い難い。 「見た目はピチピチ二十歳だって? やだなー」 『どうみても三十路(みそじ)ですよ』 心はまだまだ現役高校生だからな、と主張する担任を生温かい目で眺めるあたし。 「ま、先生は君に期待しておくよ」 『……へっ、』 今日から世話になる一教師は、 「一宮にとっての“楽しい”って感情が」 この学校で見つけられることを。 そう呟いて微かに微笑んだような気がした。 こんな先生も悪くないかもしれない、なんて心の内で思ったのはまだ内緒の話。
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