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野犬を見据え、木の棒を構える。
「駄目!逃げて!!」
「それなら、姉さんが逃げるべきだ。
俺が足止めをして、姉さんが逃げる。
最善の策だろ?」
「駄目!」
「はぁ~~……じゃあ、こうしよう。
姉さんは助けを呼びに行くだけだ。
そして、俺は野犬とじゃれあって時間を稼ぐ」
少し言い方を変えただけだが効果は十分にあるだろう。
「そしたら桜ちゃんが……」
「大丈夫、大丈夫。
俺は……まだ死にたくはないからね」
2度も無様に死んでたまるか。
死ぬなら天寿を全うしてやる!
「ほら、野犬が今にも襲い掛かりそうだから、早く」
「………待っててね!!直ぐ呼んでくるから!!」
背後から姉さんの気配が遠くなっていく。
「………さぁ、人生初の生き残りの闘いを始めようか」
目の前の野犬は腹をすかせているのだろうか……そうならば、俺の姿は飯にしか見えていないだろう。
俺はお前がただの獣しか見えない。見た目も中身も。
グルルルルルルル……ガウッ!
長い唸り声の後、口を大きく開け、俺に飛び掛ってくる。
「それは……不正解」
野犬めがけて木の棒で突く。
弱点とも呼べる、口の中を狙って。
だが、子どもの筋力で木の棒を正確に口に運ぶことなど出来るはずも無く、頭に当たる。
それでも、ダメージは与えることが出来た。
手に殴った時の衝撃がこびりついたように残る。これが何かを殴る感触……
野犬は空中で叩かれ、野に落ちる。
ガツッ!
キャンッ!
倒れたところを走って近づき追い討ちを掛けるかの如く殴る。
これが生き物を殴る感触……。
急に日の光が何かに遮られた。
黒い雲。
夕立のように強い雨がいきなり降り始める。
ガツッガツッガツッ
子どもの威力では一回で仕留めることは出来ない。
精々怯ませる程度だ。
だから、何回も殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
―――――ああ……俺は多分……酷く……冷たい目をしているんだろうな……
殴りながらこんなことを考えていた。
野犬の頭から赤い、赤い血が流れる。
もう、野犬の鳴き声は聞こえない。
ガツッガツッガツッ
殴る。殴る。殴る。
狂ったように殴り続ける。
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