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「はぁ……はぁ……はぁ………うっ……」
足も腕も頭も何もかもが疲れたとき、振りかぶっていた手が力なく落ちる。
木の棒が手から落ちる。
野犬を見る。
それはもう野犬と呼べるものではなかった。
急に吐き気が込み上げる。
「うっ…………」
吐き気をどうにか飲み込む。
眩暈がする。
目の前が滲む。
「雨か………」
雨が降っていたことを思い出した。
「墓……作らないと……」
姉さんが来るまで時間はまだあるだろう。
こんなもの……見せれる筈が無い…
体をどうにか動かし木の棒を持って、地面を掘る。
地面は雨に濡れて軟らかくなっている。
15分程度で野犬が埋まりそうな穴が出来上がった。
野犬を引き摺り、穴へ置く。
そして、土を被せる。
ここだけ不自然に盛り上がっている。
最後に、野犬を殺した、木の棒を立てる。
「来世では……幸せに…………」
今度は体から力が抜ける。
墓の横に倒れ、瞼を閉じる。
「疲れ……た……」
目から何かがこぼれる。
涙か雨か……区別はつかなかった。
でも……何故か悲しかった。
†
雨が強く降り頻る中、一人の少女は山の中を駆ける。
「はっ…はっ…はっ」
早く……早く……早く行かないと桜ちゃんがっ!!
「きゃっ!」
石に躓いて転んでしまった。
これで何回目だろう?
こんなことしてる場合じゃないのに!
こんなとき自分のドジに腹が立つ。
「行か…なきゃ…」
足が痛くて、血が流れている。でも気にしない。
気にしてる時間が惜しい。
「あ…れ……?」
足が動かない。
正確には力が入らない。
「何で…動いてよ……」
毎日走り回って、桜ちゃんに迷惑掛けて……何で今動かないの…?
桃香は野犬から逃げるためずっと走っていた。走りつかれ追い詰められたときに叫んだのだ。そして、桜香が来た。
桃香の足は…限界を迎えていたのだ。
それでも桃香は腕だけで前に進もうとする。
泥に塗れることも気にせず。
ただ一人の弟を助けるために――
†
桃香の体感では数分。
実際の時間では数十分の時が過ぎたとき……
茂みの向こうから声が聞こえた。
?「……?誰かいるのか?」
聞き覚えのある声。
毎日聞いている声。
その声のする方向に思いっきり私は叫ぶ。
「お父さん!!」
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