1242人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
鍛冶屋の近くに来ると、いつもの音が聞こえた。
カァン!…………カァン!……
おやっさんが鎚を振っている。
それが終わるのをただ眺めて待っておく。
今声を掛けても無駄に終わるだけだから。
「ふぅ……俺も歳か………」
数十分待つ覚悟でいたのだが、数分で止めてしまった。
額の汗を拭っているおやっさんに声を掛けた。
「おやっさ~ん」
声を掛けると、気付いて俺のほうを向く。
「おう、坊主じゃねぇか。最近見なかったがどうしたんだ?」
「少し、長い散歩に」
間違ったことは言ってない。
「散歩ねぇ………まぁ、いい。今日はどうしたんだ?」
「新しい武器を……と思って」
「前の武器はどうしたんだ?」
「真ん中からポッきりと……」
ものの見事に折れましたよ。
お蔭で少し危なかった……良かった、無手での戦闘も出来るようにしてて……
「やっぱりか……数年使い続けてりゃそうなるわな。
これで……全部壊れちまったのか?」
「うん。全部」
剣も槍も弓も偃月刀も全部壊れた。
「ちゃんと供養したか?」
「そりゃあ勿論。今まで使ってきた相棒だからね」
その言葉を聞いて、おやっさんはにっこりと笑った。
「そりゃ、良かった。
それで、何の武器を作ればいいんだ?」
顎に手を当てて考える。
「う~ん…………」
正直、考えてなかったな……
あっ、まだ使っていない武器があったな。
「方天戟」
「方天戟って……使えんのか?」
方天戟とは槍のような刃の両側に左右対称に「月牙」と呼ばれる三日月状の刃が付いている武器のことだ。
西欧風に言えば、ハルバードだ。
「使えるんじゃない?」
思わず疑問系に。
言ってみて思ったが、かなりの重量がある筈だから使えるのかどうかわからない。
「……確か、槍があったな…それを改良して作るか……」
おやっさんは独り言をブツブツ言いながら考えている。
こうなったら周りの声など聞こえない。
「凄い集中力だな……金はいつものところに置いとくよ~」
建物の奥に入り、金を置いて外に出る。
最初のコメントを投稿しよう!