第一章・始まった物語

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鍛冶屋の近くに来ると、いつもの音が聞こえた。 カァン!…………カァン!…… おやっさんが鎚を振っている。 それが終わるのをただ眺めて待っておく。 今声を掛けても無駄に終わるだけだから。 「ふぅ……俺も歳か………」 数十分待つ覚悟でいたのだが、数分で止めてしまった。 額の汗を拭っているおやっさんに声を掛けた。 「おやっさ~ん」 声を掛けると、気付いて俺のほうを向く。 「おう、坊主じゃねぇか。最近見なかったがどうしたんだ?」 「少し、長い散歩に」 間違ったことは言ってない。 「散歩ねぇ………まぁ、いい。今日はどうしたんだ?」 「新しい武器を……と思って」 「前の武器はどうしたんだ?」 「真ん中からポッきりと……」 ものの見事に折れましたよ。 お蔭で少し危なかった……良かった、無手での戦闘も出来るようにしてて…… 「やっぱりか……数年使い続けてりゃそうなるわな。 これで……全部壊れちまったのか?」 「うん。全部」 剣も槍も弓も偃月刀も全部壊れた。 「ちゃんと供養したか?」 「そりゃあ勿論。今まで使ってきた相棒だからね」 その言葉を聞いて、おやっさんはにっこりと笑った。 「そりゃ、良かった。 それで、何の武器を作ればいいんだ?」 顎に手を当てて考える。 「う~ん…………」 正直、考えてなかったな…… あっ、まだ使っていない武器があったな。 「方天戟」 「方天戟って……使えんのか?」 方天戟とは槍のような刃の両側に左右対称に「月牙」と呼ばれる三日月状の刃が付いている武器のことだ。 西欧風に言えば、ハルバードだ。 「使えるんじゃない?」 思わず疑問系に。 言ってみて思ったが、かなりの重量がある筈だから使えるのかどうかわからない。 「……確か、槍があったな…それを改良して作るか……」 おやっさんは独り言をブツブツ言いながら考えている。 こうなったら周りの声など聞こえない。 「凄い集中力だな……金はいつものところに置いとくよ~」 建物の奥に入り、金を置いて外に出る。
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