第一章・始まった物語

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「たりめぇよ!俺はこれでも、国一番の鍛冶師と呼ばれてたんだぜ!」 おやっさんは胸を張って言った。 「今までの武器はなんだったのさ……」 確かに丈夫だったけど、装飾なしの無骨な武器ばかりだった。 「言っただろ?遊びで作ったって」 そう言われて、武器を受け取ったときのことを思い出す。 ……確かに言ってた。 「言ってただろ?」 「うん。言ってたね」 俺は肯定すると、布を床に置き槍を持つ。 「試し切り出来る?」 「おう。付いて来い」 おやっさんは頷くと俺を建物の裏に案内する。 建物の裏に着くと、そこには丸太が置いてあった。 「これだ。やってみな」 おやっさんは丸太にポンポンと叩くと丸太から少し距離を置く。 「了解…………ふっ!」 槍の刃を下に向けるよう構え、一歩大きく踏み出し、突く。 槍は丸太に吸い込まれるように軌跡を描き、丸太を貫通させた。 貫通したのを手で感じ取り、引き抜いてもう一突き。 また貫通させると、今度は切り払い。 槍の長さを利用した力のある斬撃は丸太を半分に切り裂いた。 「俺の槍はどうだ?」 試し切りを終えておやっさんが話しかけてきた。 「凄い、以外の言葉が見つからないよ。 流石、国一番」 「はっはっはっは、そりゃあ良かった。 お、そうだ。 今夜、俺のところに来いよ。 一杯やろうぜ」 手を猪口を持っているような感じにして、クイッと飲む仕種をする。 「いいねぇ、行く途中買ってくよ」 「その必要は無ぇよ。 良い酒が手に入ったんだ。 量はそんなに無いが、十分だろ?」 「確かに」 美味い酒があるなら、他の酒など不要ということだ。 美味い酒の味を濁らせてしまうだけだから。 「摘みは持ってきてくれよ?」 「分かったよ。 何か見繕って持ってくよ」 家に何があるのか思い出しながら言った。 「じゃあ、約束があるから。 また今夜」 「ああ」 おやっさんは、俺の切った丸太を拾いながら返事をした。 それから、子どもたちに饅頭を買い与えて共に遊んでいた。
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