第一章・始まった物語

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日が傾き始めた頃、子どもたちの 「まだ遊びたい!」 という発言を静め、家に帰した。 俺も家に帰り、母さんと俺の晩飯を作った。 神から貰った能力のお蔭で壊滅的だった料理も出来るようになった。 作ったのは麻婆豆腐。 母さんと美味しくいただきました。 完全に日が落ち、星がちらほらと見え始めたとき、晩飯の残りと槍を持って鍛冶屋に向かった。 夜の村は静かで、星が綺麗だった。 鍛冶屋に着くと建物の中に入りおやっさんを呼ぶ。 「裏に来い!」 と壁の向こう側から声がしたので、裏に回る。 裏に回ると切り株の傍に、丸太を切っただけの椅子におやっさんは座っていた。傍らに酒と猪口を二つ置いて。 「来たか……何を持ってきたんだ?」 「麻婆豆腐」 左手に持っている麻婆豆腐を掲げて言った。 「本当にそれは摘みなのか?」 「摘みと思えば、それは全て摘みになるんだよ」 屁理屈ですね。分かります。 「それもそうだな。 因みに、麻婆豆腐は好物だ」 その言葉に少し安心して、丸太に座った。 切り株に、麻婆豆腐を置いておやっさんの分と俺の分で分ける。 「よし、飲むか」 おやっさんも切り株に酒と猪口を置いて酒を注ぐ。「ほれ」 猪口を渡された。 「乾杯」 俺はおやっさんの方へ猪口を向けた。 「ああ、乾杯」 おやっさんが俺の猪口に軽くぶつける。 二人同時に酒を口に運び、飲み干す。 「おっ、美味い」 「当たりめぇよ。高かったんだからな」 男二人夜空を見ながら何気ない会話を交わして酒を飲む。 そんな時、ふとあることを思い出した。 「そう言えば、おやっさん。 この槍の名は?」 槍を受け取ったとき、名前を聞くのを忘れていた。 「名か………考えてなかったな……」 猪口に口を付けながらゆっくりと言った。 それから、長い沈黙が支配する。 「……”闇夜<ヤミヨ>”」 おやっさんは、そう呟いて酒を呷った。
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