第一章・始まった物語

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「”闇夜”?」 酒を飲む手を止め、聞き返した。 「そうだ。 空見上げてたら思いついた」 そう言って、おやっさんは残り少ない麻婆豆腐を口に含んだ。 「”闇夜”か……本当にそんな色しているよね、こいつ」 二人は闇に紛れている槍”闇夜”を見た。 「そいつは俺の最後の作品だ。 壊れるまで使ってやってくれ。 まぁ……そうそう壊れはしねぇがな」 自信満々に言って酒を呷った。 俺の予想では最後の一杯だ。 「あ、無くなってやがる」 酒の入った陶器をひっくり返しながら言った。 予想通り。 俺は猪口に残っていた最後の酒を呷った。 「今日はもうお開きかな?」 摘みも酒も無くなった。 俺は立ち上がり、器を片付ける。 「そうそう、聞いたぜ? 旅に出るんだってな?」 器を片付け終えたとき、おやっさんは言った。 「うん。 長い長い旅に出る」 ここに帰ってくるかも、来れるかも分からない旅に…… 「そうかぁ……頑張れよ」 「勿論」 もう一度丸太に座り、星が輝く夜空を見上げた。 「………坊主」 「何?」 夜空を見上げながら返事をする。 「……楽しかったぞ。 俺に子が出来たみたいでな」 「……俺は父さんが二人いるような気分だったよ。 ………じゃあ、俺は行くよ。 出発は、明日商人が来るはずだからそれに付いて行くつもり」 俺は器を持って立ち上がった。 「じゃあ、明後日ってところか…………じゃあな、達者で」 「そっちこそ、達者で」 俺は小さく手を振り、家に帰った。
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