第二章・江東の麒麟児

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いくつかの村を経由して、到着したのは荊州南陽。 移動している途中、何にも無かった。いや、マジで。 盗賊が一人もいなかった。 そのことについて、色々話を聞いて回ったところ、美しい黒髪を持つ女性が青龍偃月刀を携え俺たちが通った道の盗賊を悉く倒して回ったから……らしい。 いつかは会ってみたいものだ。 俺は、街に着くと商人と別れた。 街を直ぐに見たかったからだ。        † 今は、昼ごろ。 その所為もあってか、人が賑わっている。 そして、俺は美味しそうな匂いが漂う通りを歩いている。 自他共に認める変な格好をしている所為か、注目を浴びている。 そんな視線を少し気にしながら店を吟味する。 旅の間、保存食ばかり食べていたので美味いものが食べたい。 ここではずれくじを引きたくは無い。 そんなことを考えながら、様々な店を見て回る。 拉麺、麻婆豆腐、炒飯 多種多様だ。 どれも食べたいと思ってしまう。 どれにしようかと目を輝かせていると…… 「火事だー!!」 その言葉に反応して、叫んだ人の方を見る。 人が多く視界が悪いが、立ち上った黒い煙が確認できた。 さっきまで、買い物や食事を楽しんでいた人々は一変して必死の形相で逃げ惑う。 このご時世火事なんて起きたら、止める術が余り無い。 建物を崩して火種を潰したり、桶の水をかけたり……これらは時間が掛かりすぎて被害が大きくなってしまう。 しかし、他に術が無い。 逃げ惑う人々に巻き込まれないよう、道の端へ寄る。 俺は人の波が過ぎるのを待った。 人の波が過ぎると俺は火事の起きた方へ歩く。 さっきまで気付かなかったが、燃えている建物に向かって叫んでいる人がいた。 そして、それを必死に止めている……多分、ここの兵隊さん。 「まだあの中には、子どもがっ!!!」 女の人は叫んだ。 兵士は必死に止めようと体を抑え声を掛けているが、そんなものお構いなしに叫び、火の海へ飛び込もうとしている。
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